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ジョセフを追い出してから、太陽がまた同じ位置にやってきた頃。ルイズはあれから部屋に閉じこもったまま、泣きじゃくるか泣き疲れて寝るかの繰り返しを続けていた。 睡眠の時間こそは普段より多いくらいだが、眠り自体が浅く断続的に寝たり起きたりを繰り返す睡眠が良質なものであるはずもなく、ルイズは目覚めていても薄ぼんやりとした靄が頭に掛かったままになっていた。 そんなろくすっぽ機能しない頭でも、丸一日考える時間があれば、なんとつまらないことで使い魔を追い出してしまったのだろうという後悔に至るのは容易いことだった。 客観的に見れば、自分がいない間に、部屋でメイドと一緒に食事してただけである。 別にベッドの上でいかがわしいことをしてたわけでもなく、メイドにパイを食べさせたフォークで自分もパイを食べただけでしかない。 だがそれがどうしても許せない。理由は判らないが、どうしても許せないのだ。 怒ったりする事ではないというのはとっくの昔に理解している。ジョセフをクビにして追い出してしまったのは明らかな失策だなんて、言われなくても判っている。 けれども、言葉に出来ない感情は正論なんか吹き飛ばす荒々しさをまだ失っていない。 悲しいのか悔しいのか、それとも憎いのか。その全部のようで、その全部ではない。 ベッドに倒れ伏したまま、自分の中の渦巻く感情の正体を探ろうとする。何度も試みて、何度も答えの見つからない問い掛けをしようとしたその時、ドアがノックされた。 ジョセフが帰ってきたのだろうか。 鏡は見ていないが、泣き続けた自分の顔なんか例え使い魔と言えども見せられたものではない。もう一度ノックが聞こえる前に、ルイズは頭を隠すように毛布に潜り込んだ。 それから間もなく、部屋の主の許可もないうちにドアが開いた。 ルイズは毛布の隙間から視線だけをちらりと入り口にやる。 ドアを開けて入ってきたのは、キュルケだった。燃え盛る火のような赤毛を揺らし、褐色の肌を制服へ窮屈に詰め込んでベッドへと歩み寄ってくる。 「……誰が入っていいって言ったのよ」 「入っていいなんて言うつもりなかったくせに、何言ってんだか」 そう言い放つと毛布に包まったままのルイズの横に座った。 「あんた達が昨日の夜から王子様の部屋に来ないから、余った食事はシルフィードのエサになってるのよ。で、どうするの。ディナーは二人分の食事をキャンセルしていいのね?」 ジョセフの姿が昨日から見えず、真面目なルイズが授業を休んでいるとなれば、何かしら二人の間に起こったという答えに辿り着くのは、容易なことだった。 だがこの時点で何故ジョセフが不在なのか、という理由を言い当てることまでは出来ない。 と言う訳で、ルイズの部屋を一番訪問しやすい立場にあるキュルケがやってきたというわけだった。 「まあ、詳しい事は判らないけれど。なんでダーリンがいないのかしら?」 問いかける声の余韻が消えてしばらくしてから、もぞり、と毛布が動いた。 「……ジョセフが……」 「ダーリンが?」 「……メイドと、部屋でごはん食べてた」 「ふんふん、それで? お腹も膨れたところでメイドをベッドに連れ込んでたの?」 「……違うもん」 「じゃあ何よ。まさかメイドと一緒に食事してただけで追い出したの?」 「……違うもん」 「……じゃあ、キスくらいしてたとか?」 「……違うもん」 もどかしい謎当てをさせられることになったキュルケは、豊かな赤毛をかいた。 その場面を目撃したルイズが怒ってジョセフを追い出しそうなシチュエーションを幾つか想像してみる。 一緒に食事するより重くて、キスするよりは軽い場面…… 「……ええと。ダーリンがメイドにあーんしてたところを見ちゃった?」 「…………」 返事がないということは、正解だと理解する。そして導き出された正解のあんまりにもあんまりな下らなさに、キュルケは思わず深々と溜息を吐いた。 「……あのねルイズ。そのくらいで使い魔追い出してたら何十回使い魔召喚しても追いつかないわよ」 「……それだけじゃないもん。あーんしたフォークで自分もパイ食べたんだもん」 間接キスも追加された。だからどうしたと言うのだ。 「なるほど。話を総合すると、自分の部屋でメイドなんかと二人きりで食事して、あーんまでして、しかも間接キスまでしたのが許せなくて思わずダーリンを追い出した、と」 再び無言を貫くルイズを見下ろし、キュルケは大きな呆れの気持ちの中に少しばかり安堵の気持ちを混ぜこぜていた。 ヴェストリ広場の決闘があってから、キュルケの照準ド真ん中にジョセフは収まっている。 最初のうちはヴァリエールの恋人を寝取るツェルプストーの伝統に従った、軽いお遊びのようなものだった。 それがフーケ追跡やワルド戦、アルビオン国王と三百人のメイジを騙してのニューカッスル城の爆破解体と岬落としを目撃した今となっては、本気でジョセフをツェルプストーに引き込もうと考えていた。 どんな人生を歩んできたかは知らないが、どうやらジョセフの中に蓄積された知識と知恵は並大抵のものではないということは嫌と言うほど思い知った。もしあの知識を然るべき場所で使えるなら、ツェルプストー家が大きく隆盛するに違いない。 未だに平民の地位も低く、メイジにあらずんば人にあらずという風潮が色濃いトリステインでこれだけの能力を死蔵させるより、平民でも実力と財力があれば貴族となれるゲルマニアに来ればすぐにでもジョセフは貴族になれるだろうと思っている。 ツェルプストーにジョセフを引き込む為に必要ならば、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーをジョセフの花嫁にしてもいいとすら考えていた。 しかしキュルケ本人の覚悟がそこまで固まっていても、その覚悟を表に出すには幾つかの障害が余りにも大きすぎるということも彼女は理解していた。 一つは、ジョセフが煮ても焼いても食えないジジイだということである。 ゼロのルイズが召喚した平民の老人という状況から、決闘騒ぎという踏み台はあったものの、口八丁手八丁で学院中の人間の心を貴族平民問わず我が物にしてしまえる手腕。 お調子者のように見えるが、よくよく観察していると下手に深みに嵌らない様に周囲との距離を上手に調節しつつも、周囲にはそれを悟らせない人間関係構築の巧みさ。 今ではクラスメートの大半はジョセフの友人になっているし、平民の使用人に至ってはジョセフを嫌う人間なんかいないのではないかという領域に至っている。 下手に手を出すと逆に丸め込まれたりしかねないので、いかに攻めるかをしっかりと考えなければならない。胸元見せたり足を組んだりするだけでホイホイついてくる同級生とは比べ物にならない強敵だという認識はある。 (胸元見せたら鼻の下伸ばすけれど) オールドオスマンもそうだが、男と言うのはいくつになってもスケベだから困る。 ジョセフ本人は故郷に妻もいるし孫もいると言っていたが、キュルケは直感的に「押したら何とかなりそう。バレなきゃセーフだと考えてるタイプ」と判断している。 次にルイズとジョセフが『バカ主従』だということ。 ジョセフはルイズをそれはもう猫可愛がりしている。アルビオン行では事あるごとに可愛がりっぷりを披露されて胸焼けがしたくらいだ。 しかもルイズもそれを嫌がるどころか悪く思っていないのは誰が見ても明らか。口では「そんなの関係ないんだから!」と言っておきながら、嬉しそうに緩む顔をなんとか隠そうとする努力には頭が下がる。 (そんなのどうせ周りにばれてるんだから諦めればいいのに) 何度もその言葉が口をつきそうになったが、言ったところで顔を真っ赤にして頑張って否定するだけなのは目に見えてるので言わないことにしている。 それなのにいざジョセフが他の女と仲良くするとこうやって怒り出す。 フリッグの舞踏会の夜にフレイムと話していた予想がこれ以上ないくらいに大当たりしていた。これが自分の部屋に連れ込んだりしていたら①どころか②か③の二択になっていたところだった。それもこの様子なら、かなりいい確率で②になりかねない。 事を急いて下手に手を出してなくてよかった、というのが安堵の気持ちであった。 ――そして最後の一つ。 キュルケは溜息を吐き出して、毛布から出てこないルイズを一瞥し、足を組み直した。 「このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは……」 昔、劇場で見た歌劇の主人公が言っていたセリフを思い出しつつ、独り言を始める。 「いわゆる好色のレッテルを貼られているわ」 ルイズから視線を外し、何もない空間に視線をやりながら言葉を続けていく。 「つまらないやっかみでケンカ売って来た相手を必要以上にブチのめしちゃって病院から未だに出てこないのもいる。伝統と慎みを語るだけで恋人を繋ぎ止める努力もしないんで気合を入れてあげたレディはもう二度と学院に来てないわ。 私の興味を引けなくなった殿方にはすぐにさよならするなんてのはしょっちゅうよ」 そこまで言って、ルイズがくるまっている毛布が身動き一つしていないのを確認し。 息を一つ吸ってから、淡々と語っていた声色に少しずつ熱を篭らせていく。 「けれどこんな私にも、手を出してはいけない相手はわかるわ」 細く長い指を毛布にかけると、有無を言わさず毛布を引き剥いだ。ネグリジェ姿のルイズが窓から差し込む夕日の光に晒される。 「な、何をするのよツェルプストー!」 当然上がる抗議の声にも構わず、キュルケはやっと顔が見えたルイズに向かって一喝する。 「ただ泣いて世話してもらうだけの赤ん坊を可愛がっているお爺さんは寝取れないわ!」 予想もしなかった鋭い舌鋒に、ルイズは思わず次に上げようとしていた抗議を飲み込んでしまった。 これがキュルケの最後の理由だった。 恋人を寝取るのは特に問題ない。 本当に相手を大切に思い、相手に大切に思われているなら、たかが色仕掛け一つで靡くはずもないからだ。 ゲルマニア貴族からしてみれば、トリステイン貴族はでんとふんぞり返って相手からの寵愛を求めるばかりで、自分からは何も与えようとしない高慢ちきな怠け者でしかない。 だからトリステイン貴族の雛形のようなヴァリエールは、ツェルプストーに恋人や婚約者だけではなく配偶者まで寝取られるんだ、とツェルプストー一族は考えている。 しかし、そんなツェルプストーの家風を色濃く受け継いでいるキュルケも、ジョセフへ本格的にアプローチしないのは、ジョセフはルイズの恋人ではなく、保護者でしかないと考えているからだった。 ツェルプストーの家に生まれた者が、いけすかない女から恋人を寝取ることはあっても、赤ん坊を可愛がっているおじいちゃんを寝取る訳には行かない。 保護者を取り上げられた赤ん坊がどうなるかなど、考えなくても判る。 「ましてやメイジにとってパートナーであるはずの使い魔を大切にしないで追い出した……あんたがやったのは、そういうことよ!」 矢継ぎ早に繰り出されるキュルケの言葉に、ルイズは唇を噛み締めることしか出来ない。 それから数拍ほど間を置いてから、キュルケは静かに立ち上がった。 「あんたが赤ちゃんのうちはダーリンには手を出さないであげるわ、ラ・ヴァリエール。でも良かったわね、その様子だとダーリンはずっとアナタのものだもの」 淡々と語られる言葉は、普段の情熱的な振る舞いのキュルケからは程遠いものだった。 だが、キュルケは怒りが高まれば高まるほど、声は落ち着きを強めていく。いかにも熱を持っていそうなオレンジの炎よりも、青く輝く炎の方が遥かに温度が高いのと同じように。 悠然とした足取りで部屋を去っていくキュルケの背をただ黙って見送るしか出来ないルイズは、静かに閉められたドアを悔しげに睨みつけ……そして、赤ん坊のように泣くことしかできなかった。 * それから二日間、ルイズの部屋の扉を潜ったのは食事を運んでくる使用人だけだった。 とは言え、食事も少しばかり手を付けるくらいで、ほとんど食べ残していた。 一人きりの部屋の中でルイズがやっていたことと言えば、そのほとんどが泣きじゃくるか眠ることだけ。 ジョセフが他の女と仲良くしていた事、つまらない事でジョセフを追い出してしまった事、にっくきツェルプストーから今までにない罵倒を受けてしまった事。 そのどれもがルイズを何度も叩きのめしていた。 涙が枯れるほど泣けば、当然喉が乾く。乾いた喉を潤す為に水を飲めば、喉を潤すのも程々に再び涙が滲み出てきて、またベッドに戻って泣き続けるという繰り返し。 あんまり泣き続けていると泣くのが癖になって泣き止められなくなるが、今のルイズは正にそれだった。 しかし泣き続ける中でも、ルイズの中には反省しようという思いが芽生えていた。 謝りたい。つまらない事で怒って、つまらない事をしてしまってごめんなさい、と。 けれど当の使い魔はもう三日も帰ってきていない。本当に自分に愛想を尽かして、他のどこかにいってしまったのではないかという嫌な想像がどんどん重く圧し掛かる。 感覚の共有も出来ないから、どこに行っているのかなんて少しも判らない。 考えても何も判らないし、考えれば考えるだけ悲しくなるので、考えてしまう時間を出来るだけ減らす為に眠くもないのにベッドに横たわって目を閉じ、ひたすら眠気が来るのを待ち構える。 しかもそのまどろみも、浅い眠りとキュルケからの批難が相まっているためか、ジョセフが他の誰かの使い魔になっているという悪夢じみた夢ばかり見てしまうものだから、どれだけ眠っても逆に疲れる有様だった。 ギーシュの使い魔になっていたこともある。ジョセフの主人になったギーシュは使い魔の平民に決闘を挑まれてボロ負けするというはなはだ不名誉な事態になったが、それからは友好関係を深めていたらしい。 毎日のようにギーシュと額を突き合わせてはよく判らないデザインのワルキューレを多く作り、つまらないことで二人とも盛り上がっていたようだった。 それにしてもモンモランシーがいつも二人を見てよだれを垂らしていたのはどうしてなのだろうか。 タバサの使い魔になっていたこともある。ジョセフを召喚したはずなのに、何をどうしたのかは知らないが当然の様にシルフィードもいた。 タバサは読書を続け、シルフィードはエサを食べ、ジョセフはふらふらとそこらをほっつき歩いていて……特に現実と変わりがないように見えた。 一番腹立たしかったのがキュルケの使い魔になっていた時だった。 ジョセフを召喚してから一週間後、キュルケはそそくさと魔法学院を中退して故郷に帰ってしまった。そんなキュルケを口さがない生徒達は好き勝手に中傷した……が、数年後に再会した時、ゲルマニアは女王の治世を迎えていた。 褐色の肌を持つ女王の横に、宰相の服を着てニヤニヤ笑っているジジイが立っているのを見た途端、ルイズはベッドから跳ね起きた。 他にも色んな知り合いの使い魔になっている夢を見続けたルイズは、たった二日で大分やられてしまっていた。 今日何度目の目覚めなのか数える気もないルイズは、カーテンを閉じたままの窓を見る。日の光が差し込んでこないところを見ると、夜になっているのは判るが今のルイズにはあまり関係ないことだった。 努力の甲斐あって眠りにつこうが、数時間ほどしか時間は進まないのが判っていても。ほんの一時の逃避を求めて、ルイズは今日何度目になるか判らないまどろみに落ちていく。 (……本当に私、赤ん坊だわ。自分じゃ、泣くか寝るしか出来ないんだもの……) くすん。と鼻をすすり上げながら、頭に浮かんだ思いは、やっと訪れた眠気に掻き消えた。 ――そして、次にルイズが目覚めた時。 重い瞼を開いて最初に見えたのは、まだ日の光も差し込まないベッドの上で、途切れないいびきをかいている使い魔の横顔だった。 ひ、と息を飲んで跳ね上がった心臓を抑えるように薄い胸に手を当て、何度か大きく深呼吸をする。 そぅ、と手を伸ばして頬をつついてみる。 「んぁ」 マヌケな声を漏らして首を揺らす仕草を見れば、ふわりと頬が緩み、安堵が広がった。 しかしその柔らかな気持ちも、すぐさま込み上げてきた言い様のない怒りに塗り替えられていく。怒りに任せて右手をぴんと伸ばし、親指を手の平にぎゅっと押し付け―― 「おふっ!」 脇腹に渾身のチョップを叩き込まれて無理矢理眠りから覚まされたジョセフが、恨めしそうに主人を見やった。 「……人が気持ちよく寝てるのに何すんじゃ」 「……ご主人様ほったらかしてどこに行ってたかと思ったら、なんでご主人様のベッドで勝手に寝てるのか。納得の行く説明をしてもらおうかしら」 そう言う間もルイズのチョップはひっきりなしにジョセフの脇腹にめり込み続けていた。 「おぅっ。ちょっと待て、説明してやるからチョップを止めてくれんか」 なおも手刀を放とうとしたルイズの手をつかんで攻撃を止めさせると、ジョセフは苦笑しながら身を起こした。 「いやな、ちょっと買い物に行ってきた」 「買い物って……お金はどうしたのよ」 「ちょいとトリスタニアで賞金稼ぎの真似事をな。あの辺りは仕事が結構ある」 枕元にあった帽子を被りつつベッドから降りると、テーブルの上に置いてあった紙袋を持って再びベッドに戻ってくる。 「ほらルイズ、お土産じゃ」 紙袋から取り出した何かが、ルイズの手の上に置かれた。 反射的に受け取ってしまったそれが何か確認しようとするルイズの頭からは、既に眠気は吹き飛んでいた。 「……帽子?」 どこからどう見ても何の変哲もない帽子。 具体的に言えば、ジョセフの頭の上に乗っている帽子と全く同じデザインの帽子だった。 「何を買って来ようか悩んだが、この前、わしの帽子かぶっとったじゃろ。じゃから、この帽子買った店で買ってきた」 ニューカッスルで帽子を無くしているので、今のジョセフが被っている帽子はトリスタニアの帽子屋で買ったものである。 「わしの新しい帽子をルイズに買ってもらったお返しって言ったらヘンな話じゃが、この前なんか知らんがルイズを怒らせたお詫びも込めて、ということでどうじゃ」 自分がいない間、主人がどうしていたかなんて少しも想像が出来ていない、暢気な物言い。 普段ならここでかんしゃくを起こして怒り出す流れだった。 しかしルイズは、受け取った帽子を黙って被る。 ルイズの頭のサイズより少しだけ大きい帽子は、主人より背の高い使い魔の視線からルイズの顔を隠す。 両手でつばを掴んで更に帽子へ頭を埋もれさせると、ルイズは何も言わずにジョセフの胸へ帽子越しに額を押し付けた。 普段の高慢ちきでけたたましい主人とは違うしおらしい態度に少しだけ目を丸くしたが、今回は減らず口を叩かず胸の前にいる主人の頭を優しく抱いた。 陽だまりの様な匂いがする腕の中に抱かれながら、ルイズはジョセフには判らないよう、ブリミルへ感謝の祈りを捧げるうち、知らずに眠りについていた。 この眠りは夢も見ない、深い安らかな眠りだった。 * 次の日の朝。 キュルケは今日も変わりなく身支度を済ませると、フレイムを従えて自室の扉を開ける。 「ほら何してんのよジョセフ! 早く行かないと朝食に間に合わないわよ!」 「そんなに慌てんでもまだ大丈夫じゃて!」 すると、少女と老人の騒がしいやり取りが聞こえてきた。 薄く化粧を乗せた顔が、優しく緩む。 「……ま、雨降って地固まるって言ったところかしら。大体予想通りの結果だわね、賭けるのもバカバカしいくらいのオッズだけど」 せっかくだから部屋から出てきたところをからかってやるとするか。 そう考えたキュルケは、緩く腕を組んで壁に凭れ掛かり、ルイズとジョセフが出てくるのを待ち構える。 サイレントの魔法も掛かっていない部屋からは何をしているのかは知らないが、どったんばったんと騒音が聞こえてくる。 「ほら、行くわよ!」 一方的に出発を宣告したと同時に、扉が開く。 そしてキュルケの視界に次に飛び込んできたのは―― ジョセフと同じデザインの帽子を被ったルイズだった。 あんまりにも予想を超えた大穴の出来事に、キュルケは完全に虚を突かれた。 「そんなトコで何してんのよ」 思わず呆然と突っ立ってしまっていたキュルケを、帽子の下から訝しげな目で見やるルイズ。百戦錬磨のキュルケにしても、ここまでとは全く考えが及ばなかった。 「……ええと。……その、帽子は?」 「ジョセフのお土産」 顔を赤くもせず、恥じらいもせず、ごまかしもせず、きっぱりと言い切った。 「ちょっとサイズが大きいけれど、そのうち慣れるわ」 扉の鍵を閉めると、ジョセフを引き連れて凛とした足取りで廊下を歩いていく。 そして階段に差し掛かったところで、まだ一歩も動いていなかったキュルケに視線を向けると、何でもないことのように言った。 「どうしたのキュルケ……朝食を取りに行くんでしょう?」 言葉の余韻が消えないうちに、ルイズは階段を下りていった。 ルイズとジョセフの姿が見えなくなって数秒してから、キュルケは無意識に息を呑んだ。 (まるで10年も修羅場をくぐりぬけて来たような……スゴ味と……冷静さを感じる目だわ……、たったの二日でこんなにも変わるものなの……!) つい二日前まで赤ん坊と変わりなかったルイズは既にいないことを、キュルケは悟った。 そしてジョセフを寝取ることがどうしようもなく難しくなったことも、悟る。 「ふ、ふふふ……」 しかし、艶やかな形よい唇から漏れたのは。 「ふふふふふ……そうよ……そうじゃなくっちゃあいけないわ、ルイズ。ツェルプストーの因縁の相手が泣いてるだけの赤ん坊じゃあ面白くもなんともないわ……」 これから待ち構える展開を待ち望んで笑う声だった。 「いいわ、ラ・ヴァリエール! アンタは赤ん坊でいる事ではなく自分の足で立つ貴族である事を選んだという訳ねッ!」 その時、キュルケが露にした歓喜の理由は、彼女自身にも理解できない。 しかし、確かに彼女の中に歓喜の炎を灯したのはルイズだった。 一頻り溢れ出した笑いが止まった頃、傍らで静かに佇んでいたフレイムの頭に手を伸ばし、優しく撫でつけた。 「さあフレイム、今日から忙しくなるわよ」 きゅる! と嬉しそうに鳴いたサラマンダーは、主人の後を付いて歩き出した。 To Be Contined → 戻る
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ルイズは無力だった。 空から砲弾が降り注ぐ中、彼女は平民と同じようにメイジ達が張り巡らせる風の障壁に守られているしか出来なかった。 何も出来ず空を見上げる彼女の目には、知らないうちに涙が溜まっている。 戦場にやって来たはいいものの、彼女はただの少女となんら変わりはない。杖を掲げれば爆発くらいは起こせるが、数多く降る砲弾の一つや二つ爆発させたところで、現状を打破できる訳でもない。 むしろまかり間違って風の障壁を爆破させてしまったりすれば目も当てられない。 自分を守ってくれる使い魔は空の上で飛行機に乗って戦艦に立ち向かっている。 竜騎士隊を全滅させた飛行機も、戦艦と比べれば鯨と羽虫のようなもの。しかしそれでも逃げようとする気配は見えない。空高く舞い上がり、急降下しながらレキシントン号に白い光を次々と打ちかけている。 だがレキシントン号はビクともしない。もう一度同じ動きを繰り返したが、それでも結果は同じだった。 召喚してから今まで、常識では考えられないような結果を生み出してきたジョセフでもこれが限界なのだと、心のどこかが答えを出していた。 (もうダメよ……もう、アンタに出来る事なんかないんだから! 早く帰りなさいよ、諦めて! ほら、もう日蝕の輪だって出来てきてるじゃない……!) この世界と異世界を繋ぐ扉らしい日蝕の輪。太陽と二つの月が重なる事によって発生するそれは、あと数分ほどで出来上がるだろう。 後はあの輪へ飛び上がって元の世界に帰ればいいだけだ。もうこんな戦争に関わらなくてもいいんだから―― 焦燥渦巻くルイズの思考に、突如別の何かが飛び込んできたのはその時だった。 降りしきる砲弾が風の障壁で弾き飛ばされている光景に、別の光景が混ざって見え始めていた。 (これは……もしかして……) かつて同じ感覚があったことをルイズは覚えていた。 ニューカッスルから脱出する時、アンデッドじみた化物となって戻ってきたワルドと対峙するジョセフの視界が映り込んできたことを。 (ジョセフの見ているものが、また見えてきた……) 右目をつぶり、左目だけに意識を集中させる。 しかし見えたのは、狭苦しい空間の中で、ハーミットパープルを生やした右手と左手が何か突き出た棒をそれぞれ握り、何か慌しげに視線をあちらこちらへやっている光景だった。足元でデルフリンガーが金具を鳴らしている様子も見える。 ガラスを張った格子の向こうには、青い空と白い雲、そしてレコン・キスタの艦船があった。ジョセフが飛行機の中から見ている景色を見ている、という結論に達するのは難しいことではなかった。 「……何してるのよ」 だがハルケギニアの住人であるルイズには、見えている光景に映る物体が何なのか少しも判ることはなく、ジョセフの視界が見えたからと言って何がどうなっているのか判るはずもない。 ちょうどその時、ジョセフはハーミットパープルを通じてエンジンが焼け付いていることを理解し、デルフリンガーに事態を説明しているところだったが、当然そんな事態が起こっているとはルイズにはおよびも付かない。 しかし普段見ようと思っても見えないジョセフの視界が見えていることは、何かしら緊急事態が起こっているということは判る。 首を傾げたルイズの頭の中へ、突然ジョセフの視界が映り込んできたように、またもや突然激しい轟音と、それに負けないように声を張り上げた誰かの声が聞こえ始めた。 『ふぅーむ。こいつぁ参ったな……掻い摘んで言うと、帰れんくなったっつーこった』 野太い老人の声に、ルイズは小さな肩を跳ね上がらせた。 口調からしてジョセフかと思ったが、どこかしらジョセフの声とは似ていない声質であり、誰か別の人物の声だと考えたその時。 『気楽に言ってんじゃねえよ! しゃあねえ、じゃあどっかに着陸して……』 続けて聞こえてきたのはデルフリンガーの声。こちらは何度も聞いてきた、間違いなくあの生意気なインテリジェンスソードの声であった。 (え!? これは一体どうなってるの……!?) 混乱するルイズの頭の中に、再び聞き覚えの無い老人の声が響いた。 『いや、このままあいつらをほったらかすとろくなことにゃならん』 『おいおい、もう何も出来ないだろ。これ以上何かするってったら……』 老人の声に答えるデルフリンガーの声。 そこに来てルイズは、この聞き覚えの無い老人の声の主はジョセフである、と判断した。聞こえてくる声が違うのは、何か喉を痛めるような出来事があったのだろうと考える。 デルフリンガーと会話する老人に、ルイズの心当たりは一人しかいない。 一般に、自分の声を録音して聞いた時に自分の声でないように聞こえるのだが、発声する本人は自分の口から出た声の他に、声帯の震えが頭蓋骨を通じて直接伝わっているもう一つの声も同時に聞いている。 自分の声を録音して聞いた時に違和感を感じるのは、頭蓋骨を通して伝わる声が聞こえず、自分の口から出た声のみを聞く為に起こる現象だからである。 ルイズがジョセフの聴覚を共有している今、ルイズが聞いているのはジョセフ本人が普段聞いている声であり、すぐにジョセフの声だと判別出来ないのは自然なことであった。 さて、そして先程聞こえてきた言葉を思い返し、その意味が理解できた途端、ルイズの顔から全身に向けて鳥肌が走る。 ――帰れなくなった。 (え、どういうこと――) 更に意識を集中させ、ジョセフの言葉から何が起こっているのかをより知ろうとする。 『このゼロ戦のパイロットには伝統的な戦法があってな』 『おい。ちょっと待て。もしかして、この飛行機をあのデカブツにぶつけようとか、そんな無謀なことを考えてるわけじゃないよな?』 『よくわかったな』 『……無茶苦茶だ――』 「ちょっと!! 待ちなさい!!」 『――そりゃねえよ』 『なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん』 声を張り上げるが、ジョセフには全く届いていないようだった。 (……まずいわ!) このまま手をこまねいていれば、ジョセフは飛行機と共に戦艦に突っ込んでいく。 それを今すぐ翻意させられるとすれば、自分かデルフリンガーしかいない、が。 『なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん』 『おい、考え直そうぜ。それはあんまりにもあんまりだ』 召喚してからさして時間が経ってないとは言え、声のトーンで何を考えているかくらいは判るようになっている。 ジョセフは既に覚悟を決めているし、デルフリンガーもその無謀な挑戦を止めようとはもう考えていないのは丸判りだ。 (考えなさいルイズ! 今、ジョセフに命の危険が迫っているからジョセフの見ているものや聞いているものが私に伝わってくる……) 一般的なメイジとは違って、意識の共有はよほど切羽詰った時にしか出来ないと言う事ならば――ジョセフに自分の見ているものが見えるかどうか判らないが、今すぐに手を講じられなければ、ジョセフが死ぬ。 ルイズは手に持っていた杖の先端を自らの喉元に突き当て、声を張り上げた。 「待ちなさい! そんな勝手なこと、主人の許しもなしにやらせないわ!」 『ルイズ!? ルイズなのかッ!?』 (届いた!) まかり間違って一言でも呪文を唱えれば爆発魔法で首から上が消し飛ぶ。 それを命の危機と判じられるルーンの判断への感謝を後回しにし、矢継ぎ早に叫んだ。 「アンタ一人が犬死にしたってどうにかなるわけじゃない! いい年して何を思い上がってるのかしら、自分だけが死ねば何とかなるだなんてお門違いもいいところだわ!」 空からの砲撃が段々と数を減じてきている中、一人叫び出したルイズの言葉に構う者は周囲にはいない。 『いや大丈夫だっつっとるじゃろ! 乗っとる飛行機墜落するんもこれで五度目じゃから安全に脱出するコツも知っとる!』 「そういう問題じゃなくて! ジョセフ、アンタは私の見てるものが見えるの!?」 『ああ、見えるが……』 ジョセフの訝しげに問う声に、ルイズはウェールズと、その腕に抱かれているアンリエッタをしかと右目に捕らえた。 「いい!? ジョセフ、アンタが波紋やスタンドを使えるように、私達には魔法があるの! ずっと前にお母様から聞いた事があるのよ……王家の人間にだけ許される、スクウェアなんか目じゃない、『ヘクサゴン・スペル』と呼ばれる魔法が!」 始祖ブリミルとその弟子達の血統を色濃く受け継ぐ王家の人間の詠唱が可能とする、伝説の魔法。ルイズはそんなものを見たことなど一度もない。母からこのような魔法も存在する、と聞きかじっただけでしかなかった。 果たしてあの二人がヘクサゴン・スペルを用いる事ができるのか、よしんば唱えられたとしてもあの艦隊に打撃を与える事ができるのか。そんな事は判る筈もない。 だが、ルイズの唇はそれをよく見知っているかのように、澱みなく言葉を紡いでいた。 「今ここには、水のトライアングルであられるアンリエッタ様と風のトライアングルのウェールズ様がおられるわ! この砲撃が終わったらお二人が詠唱を始めるのよ、アンタがそこにいたら魔法の巻き添えになるだけよ! これは命令よ、今すぐそこから離れなさいッ!!」 ジョセフを使い魔としてから、ずっと見てきたものがある。 まるで魔法のように、嘘を真実に変えてしまう口先の巧みさ。舌先三寸で人を言いくるめる話術。相手の欲するものを看破し、代わりに自分の欲しいものだけを差し出させる公称術。 融通の利かない真っ直ぐな気性を持つルイズは半ば呆れて半ば感心しながら、あっけらかんと人を騙してみせるジョセフを見てきたのだ。 今、ルイズは一世一代の大嘘が自分の口から出て来たことに今更ながら気が付いて、自分自身で驚いていた。 客観的な時間にすれば、数秒も要さない僅かな時間だった。だが、当のルイズにはその何十倍もの時間が経過したように思えるほどに長い時間が過ぎた後。 『――判った』 短い言葉が頭の中に響いたその時、ルイズの左目は再びコクピットから地上の戦場を映し、それっきりジョセフの声も聞こえなくなる。ルーンが、ジョセフの命の危険が去ったと判断した、ということだった。 バネでも仕込まれていたかのような動きで空を見上げれば、飛行機が急旋回して艦隊から離れていくのが見える。 力を込めすぎて強張っていた手をそっと下ろして杖を自分の首元から離すと、安堵を多分に混ぜこぜた空気を身体の底から搾り出すように吐き出した。 そして一度、二度、と深呼吸を繰り返せば、体中に浮ついたような間隔が広がり始め、やがて頬を大きく吊り上げる笑みが知らず知らず浮かんでくる。 (ああ……そうか、こういう気持ちなのね) ここに至って、ルイズはジョセフの心を理解したような気がしていた。 嘘やはったりを利かせて相手を騙す。たったそれだけの事が、こんなに楽しいだなんて。いつもジョセフが満面の笑みを浮かべてたのもよく判る。 「そうか、そういうことなのね……」 見る見る間に遠ざかった飛行機を見上げながら、一人ごちた。 終わりがないように思える艦砲射撃も、弾丸には限界がある。 だが、砲撃を防ぎ続けるトリステイン軍の士気の減衰する速度はずっと大きい。 魔法の障壁は今だ健在とは言え、メイジの恩恵を受けられない平民の傭兵達の被害はかなり大きい。 ラ・ロシェール周辺の地形が大きく変わってしまった頃、これ以上の砲撃は金の無駄遣いと判じたアルビオン艦隊は砲撃を止める。そして損耗など僅かにもないアルビオンの地上部隊が鬨の声を上げて押し寄せてくるのが、肉眼ではっきりと見えていた。 勝利を疑うどころか、これからの虐殺と略奪に目を輝かせている様さえ見えそうな、それほどの勢いで押し寄せるのを見たアンリエッタは、元より白い顔を更に白くし、自分をしかと抱きしめるウェールズへ縋るような視線を向けた。 「ウェールズ、様……」 アンリエッタの回りに配された将兵は、名のあるメイジばかり。あれだけ降り注いだ砲弾を受けてもなお、被害はほぼないと言って良かった。 だが、うら若き少女でしかないアンリエッタの心が恐怖でくず折れずに済んだのは、愛するウェールズの腕の中にいたからということでしかない。 ウェールズは、か細く自分の名を呼ぶアンリエッタの艶やかな髪に手を差し入れると、髪を梳く様な愛撫を与えた。 「……アンリエッタ。君は覚えているかい、僕達が初めて出会った……ラグドリアンの夜を」 戦場の中、その声はあまりにも優しく、周囲に誰もいないかのような甘い囁きだった。 「忘れるはずありませんわ! わたくしの人生の中で、あの夜は最も美しい記憶ですもの!」 「あの夜、君は誓ったね。ラグドリアンの湖に住まう水の精霊……又の名を『誓約の精霊』と呼ばれている。その姿の前で為された誓約は違えられることはない、と。その湖で……君は、僕への永久の愛を誓った」 「ええ! あの時の誓いは今も変わっておりませんわ! いいえ、今とは言わず、これからもずっと!」 「だが、僕はあの時、君の誓いに応える事が出来なかった。僕達は王家の人間だ……六千年の歴史を持つ王家の為とあれば、僕達の意思など鑑みられることはない。君もそうだ、国を守る為に、意にそぐわぬ婚姻を強いられる。 君の気持ちを、僕が知らないはずはない。世界中の誰より、一番僕が知っている。そして……僕の気持ちを世界中の誰より知っているのは、君だ。アンリエッタ」 陶器のように白かったアンリエッタの頬が、ウェールズの言葉を一言聞く度に、まるで花が色付くような美しい血色を取り戻していく。 「君を不幸にすると知っていて、永久の愛を誓うことは僕には出来なかった。だが、今の僕は違う。アルビオンの大陸から、彼に無理矢理連れ出され……僕は、アルビオン王家の皇太子ウェールズではなく、ただのウェールズになれたんだ」 ウェールズは艦隊の向こう、まるで豆粒のように見える飛行機を見上げ、目を眇めた。 「今、僕がこうやって君を抱きしめているのは……親愛なる友人、ジョセフ・ジョースターの尽力あってこそだ。彼があの飛行機械に乗って戦いに馳せ参じたのは何故だと思う、アンリエッタ!」 周囲の喧騒も、ここが戦場の只中であるということも、今のアンリエッタにはなんら関係の無いことだった。ただ、ウェールズが紡ぐ言葉をたった一言すら聞き逃すまいと、ただ愛する青年の姿だけを見つめ続けていた。 「自分をジョジョと呼んだ友人が困っているなら、助けに行くのが当たり前だと! たったそれだけの理由で、彼は死地に赴いてくれたんだ! 僕達は彼の厚意を受け取るだけじゃいけない! 黄金のように輝く彼の誇りに報いる誇りを見せなくてはいけない! そうでなくては……格好悪いじゃあないか! 誇り高きメイジとして、彼の友人として、見せなければならないものがあるッ!」 ウェールズは体の中から迸る感情を抑えようともせず、腕の中にいる少女に向けるには大きすぎる叫びを向けた。アンリエッタもまた、彼の叫びに眉を顰めることも無く……むしろ、陶酔しているかのように、ウェールズだけを青の瞳一杯に映していた。 ウェールズは、アンリエッタを抱く腕に力を込める。少女の細い肢体へ腕を食い込ませようかとするように、両腕でひたすらにアンリエッタを掻き抱いた。 「だから……だから! 僕に力を貸してほしい! 僕の愛するアンリエッタ……!」 抱擁と言うには、無骨かもしれなかった。 しかし、アンリエッタはそれを不快に思うことなど無い。その返答として、自分もまた力の限りウェールズを抱き締めると、彼の胸へただひたすらに縋り付いた。 「ああ……ああ! わたくしは……わたくしは、あの夜からずっと、ずっと、その言葉を求めておりました! あなたに愛される……ただそれだけ……ただ、それだけでわたくしの一生は幸福に彩られるのですもの!」 生きてきて良かった、と思った。この瞬間の為に私は生まれ生きてきたのだ、とさえ思えた。それほどまでに、少女は幸福だった。 知らずに流していた涙を拭うかのように、ウェールズの掌がそっとアンリエッタの頬を包んで、顔を上げさせた。 「さあ、アンリエッタ……私達は在るべき所に帰らねばならない。その為に、やらねばならないことがある。かの謀反者達に、ハルケギニアの王家を敵に回す無謀さを見せ付けねばならない。それが……“僕達”の義務だ」 ウェールズが口にする言葉の一つ一つが、アンリエッタの心をひたすらに高まらせていく。 もう既にアンリエッタの心に、恐怖など一片も無い。彼女の未来は、美しい薔薇色だけが象っていた。今、向かい来る三千の兵より、空を占める艦隊より、ただ愛する青年が自分を腕の中に抱いている事実だけが心を占めていたのだから。 二人は、どちらともなく杖を手に取った。 片手に杖を持ち、もう片腕には愛する者を抱いたまま、詠唱を始める。 『水』、『風』。二つの点が合わさる。水の風が、生まれる。 『水』、『風』。二つの線が交わる。水の旋風が、二人を囲む。 『水』、『風』。二つの三角が重なる。水の竜巻が、屹立する。 水と風の六乗。例えトライアングル同士と言えども、この様に息が合うことなど皆無と言っていい。しかし、選ばれし王家の血がそれを可能にする。 王家にのみ許されるヘキサゴン・スペル。 詠唱が干渉し合い、互いの魔力を更なる高みへと押し上げる。 水のトライアングルと風のトライアングルが絡み合い、竜巻は中心に六芒星を描く。 それは竜巻でありながら、津波。津波でありながら、竜巻。 この一撃を受ければ、どれほど堅固な城砦であろうと為す術も無く吹き飛ぶだろう。 「――まだだ」 まだ、詠唱は止まらない。 「――まだです」 まだ、二人は止まらない。 竜巻は城の様に膨れ上がってなお、ウェールズとアンリエッタの杖から放たれない。 竜巻が描く六芒星が、凄まじい回転を始める。 水と風のトライアングルは、止まらない。 ウェールズは、漆黒の輝きを込めた両眼で遥か上空に鎮座する『レキシントン』号を射抜く。 「――空を飛ぶということはッ!!」 全身から迸る魔力。どれだけ汲み出しても、なお無限に湧き出てくるような感覚さえ抱いていた。 「地面に落ちる『覚悟』を持たなければならないということだッッ!!」 アンリエッタは、艦砲射撃でかつての美しさを損なったラ・ロシェールと、今にも崩壊しそうなトリステイン軍を黄金の視線で見やった。 「私は――アンリエッタ・ド・トリステイン。トリステイン王家の王女です」 全身から迸る魔力。どれだけ汲み出しても、なお無限に湧き出てくるような感覚さえ抱いていた。 「もう恐れはありません……私は私の意志で歩いていく。これが私の――王家の血を継ぐ者の『覚悟』です」 『水』、『風』。 二つの『四角』が生まれ、合わさり、交わり、重なり――高みに上り詰める! 『水』『水』『水』『水』、『風』『風』『風』『風』。 二人の心の高まりが、二人のトライアングルメイジの力を引き出し、二人のスクウェアメイジを誕生させた。 二人のスクウェアメイジが初めて用いる魔法は、六芒星を更に超える八芒星、オクタゴン・スペル。 天さえ貫かんとばかりに膨れ上がった竜巻は、海を丸ごと飲み込んだかのよう。 高く聳える周囲の山々さえ凌駕するほどに成長した竜巻は、最早竜巻と呼ぶには壮大過ぎた。しかしそれを呼称する言葉は、竜巻であった。この場にいる全ての人間が見たことのないほどの、雄大過ぎる竜巻。 そんな巨大な代物を操るのは、たった二人の青年と少女。二人の杖が、空に浮かぶ艦隊に向けられたその時、八芒星の魔法は静かに動き始めた。 最初は人の歩み程度の速さが、ほんの数秒ごとに加速を続けていく。 これまでレコン・キスタが射ち込んだ砲弾や、砲弾で砕かれた岩や人馬。 それらを全て飲み込み、内に含み、空へ駆け上がり、レコン・キスタの地上部隊など眼中にないとばかりに彼等の頭上を跳び越していく。 レコン・キスタ艦隊は、突如生まれて向かい来る巨大な竜巻に恐慌を起こしていた。 必死にこの場から逃げ出そうとする者達は、将の制止など聞けるはずもない。 フネを戦域から逃そうとする者、魔法で逃げようとする者、逃げようの無い者、既に命運を悟った者。 彼らの運命は、一律だった。 竜巻は向かう。レコン・キスタのフネ達を咀嚼し、食らい、更なる勢いさえ増して、『レキシントン号』へと襲い行く。 「“それ”は僕のものだッ!! 返してもらうぞッッッレコン・キスタァァーーーーーー!!」 全長200メイルを誇る戦艦に、青年の絶叫が轟き――これまで竜巻が咀嚼したありとあらゆる全てに噛み砕かれていくのみだった。 十数隻もあった艦隊を一隻の例外も無く飲み込んだ竜巻は、まるで竜が天に戻るかのように雲達を超えて突き上がり……不意に宙返りをした。 凄まじい勢いで天空から放たれる、竜巻の弾丸。 その照準は、レコン・キスタの地上部隊―― 「これが君達の欲したものだッ!! 君達が立ち向かったものだッ!! そして――これこそが、僕達の力なんだッッッ!!」 地上へ向けて撃たれた竜巻の中では、まだ辛うじて『それ』が形を留めていた。 『それ』は、かつて王の手にあったもの。 叛徒達が奪い、汚した『それ』は、今この時、再び在るべき所へ『帰還』した。 「『ロイヤル・ソヴリン』だッッ!!」 振り下ろされる『王権』は、既に戦意など根こそぎ奪われたレコン・キスタ兵達を一切の容赦なく飲み込み……そして、これまでの艦砲射撃など比べ物にならないほど、地図を大きく書き換えさせることとなったのだった。 To Be Continued → 戻る
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本体、Sonだけでなく、ガキ状態も強く非常に厄介。特にガキは最強クラス。 中距離ではかなりきつく、接近戦を強いられることになる。 ただし中距離でこちらの技を潰そうと牽制や昇竜をしている場合は、隙に合わせて攻撃。 特に弱ファイアウォールは狙い目。Son遠強で着地に当てるよりもSon遠中で空中の相手に当てたほうが楽。 近距離は本体で。屈強はそれなりに使える。相手が飛んできたらD屈弱でくぐる。 起き攻めはめくりジャンプ弱がオススメ。 相手が起き上がりにナパームを出してきても安全。 相手をガキにするときは必ずデム中、もしくはウシウシで行うこと。 Sonガキんちょは動けるまでに時間がかかり、相手にバックジャンプ攻撃で逃げられる。 こうして逃げられるとSonは当然ながら、本体も焼かれてしまうことが多い。結果、全くダメージを与えられずに逃げ切られることが多い。 デムなどでガキにしても油断は禁物。初段を確実に当てること。重ねがスカって逃げられるのが一番怖いので、確実に当てるために遅めに出すのもいい。
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tes
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風景を薄っすらと染める朝もやの中、ジョセフ達は馬に鞍をつけていた。 三人とも普段通りの格好をしているが、長い時間乗馬し続けなければならないということで、普段の靴ではなく乗馬用のブーツを履いていた。 距離があるにせよ、さしたる不安はジョセフにはない。 一睡もせずに主従揃って侃々諤々の大討論を繰り広げたものの、部屋を出る前に波紋をルイズに流したので、彼女からは十時間熟睡して目覚めた朝のように眠気も疲労も消えている。 デルフリンガーは意外と長尺の剣なので背中に背負うか腰に差すか悩んだが、利便性を考えて左腰にぶら下げることとなった。 「ところでジョジョ。僕も使い魔を連れて行ってもいいかい」 「なんじゃギーシュ、お前も使い魔なんか持っとったんかい」 「そうでなかったら僕も進級出来てないじゃないか」 「そう言えばあんたの使い魔って見た事がないわね。なんだったっけ?」 ルイズの問いに、ギーシュは地面を指差した。 「ああ、ここにいるよ」 「何? 見えないわよ。アリンコでも使い魔にしたの?」 ルイズが目を細めながら地面を見ていると、ギーシュはくすりと笑って後で地面をノックした。 すると地面がぼこりと盛り上がり、そこから茶色の巨大な頭と前足が現れた。 「……何じゃこれ」 「……私に聞かないでよ」 すぐには正体が判らない二人をさておいて、ギーシュは地面に跪いて茶色の生き物を抱きしめた。 「ヴェルダンデ! ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!」 「あーと。なんじゃそのでっかいモグラみたいな生物は」 「見たまんまじゃないかジョジョ! これが僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだよ!」 「……ああ、ジャイアントモールだったの?」 ルイズの言う通り、それは巨大モグラだった。大きさは小熊ほどもある。 「そうだよ。ああヴェルダンデ、君は相変わらず可愛いね。どばどばミミズはたくさん食べたかい?」 モグモグモグ、と嬉しそうに鼻をひくつかせてつぶらな瞳で主人を見上げるモグラ。 「そうか、美味しかったかい!」 ギーシュは巨大モグラを抱きしめて頬ずりしまくっていた。 「……色々コメントに困るのう」 モンモランシーとの橋渡しをしたことをちょっと後悔したジョセフである。 主にモンモランシーにいらんことしちゃったかなーという類の。 「でもギーシュ、いくらなんでもアルビオンにモグラは連れて行けないわよ。留守番させなさい」 「そんな! こう見えても僕のヴェルダンデは馬と同じくらいの速さで土を掘れるんだよ!」 モグラはおー、と言わんばかりに前足をちょこんと上げてそうだそうだと主張した。 「あの国で地面掘ったりする生き物なんか危ないからダメよ」 きっぱりと言い切るルイズの言葉に、ギーシュは愕然と膝をついた。 「ああ、何という事だヴェルダンデ! 熾烈な運命は僕達を引き裂くんだね!」 脚本主演観客総勢一人の芝居に明け暮れる主人をさておいて、モグラはのそのそと穴から這い出るとルイズへと近付いていく。 「な、なによ」 つぶらな瞳で見上げてくるモグラに気圧されたルイズを、モグラが勢いよく押し倒した。 「ちょ、ちょっと!? 何するのよ! やめ、どこ触ってるのよ!」 鼻先や前足で美少女の身体をまさぐるモグラ。 当然ルイズが大人しくしているはずもないので、抵抗しようと暴れた結果色んなところがめくれたり露になったりするわけである。 「オイコラ。アレは何をしとるんじゃ」 特に押し迫った危険がないようなので静観しているジョセフと、少々首を傾げたギーシュ。 「んー。ヴェルダンデは危害を加えるつもりはないんだけれど……ルイズ! 何か宝石とか身に付けてないかい!」 「ほ、宝石!? それがどうかしたの!」 「ヴェルダンデは僕のために貴重な鉱石や宝石を見つけてきてくれるんだ! ルイズが何か高価な宝石をつけてるから、それに反応してるみたいだよ!」 ギーシュの言葉通り、右手の薬指にはまったルビーを見つけるとそれに鼻先を擦り付ける。 「この! 無礼なモグラね! これは姫様から頂いた指輪なのよ!」 必死にモグラからルビーを逃そうとするルイズと、宝石に追いすがろうとするヴェルダンデ。 これはどっちも引く気配がないと見たジョセフは、やれやれと苦笑しながら一人と一匹の間に割って入ろうとモグラと主人の間に手を差し入れた瞬間。 一陣の風が二人と一匹の間に舞い上がり、ジョセフごとヴェルダンデを吹き飛ばした。 ヴェルダンデは地面に転がって目をくるくる回し、ジョセフは腰をしたたかに打ちつけた。 「誰だッ!」「誰じゃッ!」 二人の男がそれぞれ激昂しながら叫ぶ。 すると朝もやの向こうから、一人の長身の貴族が歩いてくる。 羽帽子が目立つシルエットを見止めたジョセフは、レストランで頼んだ料理に髪の毛が入ってた時と同じくらいのしかめっ面を見せた。 「貴様ッ! 僕のヴェルダンデになんてことをッ!」 ギーシュは怒りに任せて薔薇の造花を振りかざしたが、羽帽子はそれよりも早く杖を引き抜いてギーシュの薔薇を吹き飛ばす。 辺りに舞い散る薔薇の花弁が地面に落ちもしないうちから、ゆっくりと言葉を並べ立てる。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられた。任務が任務だけに、一部隊をつける訳にも行かない、と僕が指名されたというわけだ」 ジョセフとおおよそ同じくらいの背丈の貴族は、羽帽子を取って一礼した。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長。ワルド子爵だ」 文句を言おうとしたギーシュは、余りにも相手が悪いと口を噤まざるを得なかった。 トリステイン貴族の憧れである魔法衛士隊の隊長の実力は、ギーシュも十二分に理解している。 「すまないね、婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なかったのでね」 「フン、剥がそうとしてたわしまで吹き飛ばすたぁいい度胸じゃなッ」 婚約者、という単語を耳にしたジョセフの機嫌が更に急降下していった。 ヴェルダンデから解放されたルイズは、立ち上がることも忘れてワルドを見つめていた。 「ワルド、様……」 ワルドは朗らかな笑みを浮かべながら、ルイズに駆け寄ると彼女を抱き上げた。 「久しぶりだな、ルイズ! 僕のルイズ! 相変わらず君は軽いね、まるで羽毛のようだ!」 「お……お久しぶりで御座います」 突然のことにも、悪い気分はしないのか頬を赤らめてうっすらと笑みを見せていた。 そのルイズの様子も、更にジョセフの機嫌をより一層悪くしていく。 「あ、あの、恥ずかしいですわ……」 「ああ、すまない! 僕の可愛らしい婚約者に久しぶりに会ったものでね、ついはしゃいでしまった! ところで、彼らが今回の仲間かい? 旅を共にするんだ、自己紹介と行こうか」 と、ルイズを下ろしてもう一度羽帽子を被り直したワルドは、ギーシュとジョセフに向き直った。 「え、ええと……ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のジョセフです」 ルイズがそれぞれを指差して紹介すれば、ギーシュは深々と頭を下げた。 ジョセフは不本意そのものな顔はしながらも、一応会釈くらいはした。 「御老人、キミがルイズの使い魔かい。人とは思わなかったな」 (ケッ! ガキにタメ口叩かれる覚えなぞないわいッ!) 学院の友人達と同じような口調と態度で話しかけられて、ジョセフの眉間には深々とした溝が刻み込まれた。 もし敬語で話しかけられても眉間の溝は同じ深さになっていただろう。 とどのつまり、嫌いな相手から何をどうされようが不愉快なことに変わりはない。 「僕の婚約者が世話になっているよ」 「そいつぁどーも」 ジョセフは目の前の男を軽く一瞥して品定めした。 色男なのは認めてやってもいい。だがどうにもいけすかん雰囲気がプンプンする。 こうやって向かい合えば、いやぁな目をしてるのが丸判りだ。 まるで仮面つけたまんま人と話してる様な……使い魔が人だろうと動物だろうとどうでもいい、という目だ。 しかも微笑みがすこぶる上手なのがより一層腹が立つ。この仮面の裏に隠した素顔がどんなものかは知らないが、この目からしてろくなモンじゃないだろう。NYにいた頃に、自分を騙そうと近づいてきた連中と似た、ゲロ以下の臭いが漂ってきそうだ。 ジョセフは舌打ちの代わりに、軽い溜息をつく。 ワルドはジョセフの様子を見て、何やら誤解したらしく朗らかな笑みのままジョセフの肩を叩いた。 「どうした? もしかしてアルビオンに行くのが怖いのか? キミはあの『土くれ』のフーケを捕らえたんだろ? その勇気と才覚があれば、姫殿下の任務も容易くこなせるさ!」 と、豪快に笑うワルドを前にしても、ジョセフの目はあくまで冷淡だった。 (ホリィを掻っ攫ったあの日本人だって、ホリィにあんな目を向けたこたァ一度もないッ) だがルイズはそんな彼の目の光に気付く様子もなく、どうにも落ち着きをなくしている。 ジョセフの口の中に、どうにも苦い味が広がるのを止める事は出来なかった。 ワルドが口笛を吹くと、朝もやの空からグリフォンが降り立ってきた。 ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手を差し伸べた。 「おいで、ルイズ」 ルイズはしばらく躊躇いながらも、意を決して差し伸べられた手を取った。 それを見るジョセフは、口の中に詰め込んだ苦虫を咀嚼して飲み込んでいるような表情を隠そうともしなかったが、それを見ていたのはギーシュだけであった。 「では諸君! いざ行かん、我らが姫殿下の御為に!」 杖を掲げて叫ぶワルドのグリフォンが駆け出していく。 グリフォン隊隊長の後ろを付いていくギーシュは感動の面持ちで馬を走らせていき、ジョセフも苛立ちを隠さないまま馬を進ませていく。 いけすかない、から信用ならない、に警戒レベルを上げた男を見上げながら、ジョセフは深く帽子を被り直した。 最初の目的地であるラ・ロシェールはトリステインから早馬で二日ほどの距離にある。 だが学院を出発してからというもの、ワルドはグリフォンをひたすら走り続けさせていた。 途中の駅で馬を二度ほど交換したが、グリフォンは疲労の欠片すら見せずに当初からの速度を崩さず空を駆け続けている。 「グリフォンっつーのはあんなにタフなモンなんか」 「……いくら幻獣だって行っても、あそこまでタフなのはそうはいないはずだよ」 馬は交換していてもまだ背筋を伸ばして騎乗しているジョセフと、少々疲労の色が濃くなってきたギーシュは、前方を大きく前に出るグリフォンを見上げて話していた。 ジョセフは波紋を全身に流している為に疲労も少ないが、ギーシュはそうもいかない。 ギーシュがへばっているために、駅に着くたびに幾らか波紋を流して疲れを軽減してはいるが、常に波紋を流せないのでちょくちょくへばってしまうのだ。 「つーか、急ぎの任務なのは判るんじゃが……あいつ、どうにもわしらを置いていこうとしてるような気配じゃな」 ワルドのグリフォンは隙あらばジョセフ達を置いてきぼりにしようとするかのように、速いペースで休みなく駆け続けている。 「……そりゃそうだ、直々に任務を請け負ったルイズと栄えあるグリフォン隊隊長がいれば、使い魔と立ち聞きしてただけの僕なんていてもいなくてもいいだろうからね」 時折ルイズが後ろを向くと、グリフォンは少々スピードを緩めるが、それも少し時間が経てばまたスピードは元に戻っていく。 「ルイズが心配してくれちゃーおるみたいじゃがな」 最初はぎこちなく見えたルイズの振る舞いも、段々と親しげなものになっているのが見て判る。 「それにしてもルイズも公爵家の生まれだってことをよく忘れられるけど、まさか婚約者がグリフォン隊の隊長殿だなんてね。やはりヴァリエールは名門だな」 感心したようなギーシュの言葉に、ジョセフの顔に再び苦味が走る。 グリフォンの上ではワルドが親しげにルイズと会話するだけではなく、時折馴れ馴れしく肩を抱いたり手を繋いだりしている。 可愛い孫娘が他の男と親しげにしてるだけでも腹立たしいのに、その男はあまりにも信用ならない雰囲気を漂わせている。 しかもルイズがそれに微塵も気付いていないというのが怒りに拍車をかける。 ここでルイズに「あの男は信用ならんから付き合うな」と言っても聞いてくれないことは請け合いである。 ああいう状態の少女に年長者が何を言っても無駄なのは十分理解している。 だがそれで諦めがつけられるか、と言われれば付けられる筈がない。ジョセフ・ジョースターは年のワリに若いとよく言われるが、精神年齢は波紋を流さずともかなり若かった。 「おやジョジョ。何やら剣呑な目つきだけれど……やはりあれか。婚約者と言えども敬愛するご主人様を取られるのはやはりシャクかい? それとも目に入れても痛くない孫娘を他の男に持っていかれるのは頭にくるのかい?」 ジョセフがグリフォンを見上げる視線の質に気付いたギーシュが、にまにまと笑った。 「あん?」 ぎろり、と睨む視線にも竦む気配さえ見せずに、なおも調子に乗って言葉を続ける。 「もしかして、ヤキモチかい? ご主人様に適わぬ愛を抱いたのかい!? 忠告しておくけれど、身分違いの恋は昔から悲劇の種って相場が決まってるんだぜ?」 「やかましいわい。あんまり過ぎた口叩いとるとお前の彼女にオイタをバラすぞ」 「なんだい、あれから僕はモンモランシーに知られて困るようなことは」 「四日前。夜の中庭。栗毛のポニーテール」 「すまなかったジョジョ、もう二度とそんな口はきかないよ」 お口にチャックをしたギーシュから視線を外すと、ルイズが自分を見ていることに気付く。 軽く結んだ唇を開けないまま、ひとまずひらりと手を振って見せた。 馬を何度も換え、休みなく走り通した一行は出発した夜のうちにラ・ロシェールの入り口へ到達した。 早馬でも二日かかる距離を一日足らずで踏破したという計算になる。 だが港町と聞いていたのだが、ここは明らかに海とは無縁な険しい山々に囲まれた山道である。潮の匂いなど微塵も漂ってこない。 それからまたしばらく険しい岩山の間を進むと、峡谷に囲まれた街が見える。 街道沿いに岩を穿って建てられた建物が並ぶ、港町と言う単語からは縁遠い街並みだった。 「ああ、やっと着いた! すごい強行軍だった」 ギーシュの言葉に、ジョセフは怪訝そうにラ・ロシェールを見た。 「ここが港町か? どう見たって山ん中じゃあないか」 「なんだいジョジョ、アルビオンを知らないのかい?」 休憩のたびに波紋を受けたとは言え、疲れは隠せない。 しかし有名なアルビオンを知らない、とのたまうジョセフに、ギーシュは一種の優越感めいたものを滲ませながら言葉を掛ける。 「見たことも聞いたこともないからの」 「それはないだろうジョジョ!」 ジョセフが異世界から来たということを知っているのはルイズとオスマンだけである。 この世界の常識と非常識の区別さえあまり明確ではないのは仕方のないことだった。 「知らんモンはしょうがないわい」 と、この旅の恒例行事になりつつある老人と青年と実りのない口論が再び始まろうとしたその時。 不意にジョセフ達が駆る馬目掛けて、煌々と燃え盛る松明が何本も投げ付けられた。 峡谷を照らす炎に、馬達は恐れおののいて前足を高々と上げようとしたが、まるで彫像のように馬達はぴたりと足を止めた。 「ギーシュッ! 盾を錬金するんじゃッ!!」 松明が投げ込まれた瞬間に、ジョセフは自分の馬に波紋を流して動きを止め、続いてギーシュの馬にも地面を這わせたハーミットパープルで波紋を流し込んで動きを止めていた。 そのため、驚いた馬から振り落とされるという事態を避ける事は出来た。 ジョセフ自身は素早く馬から降りつつ、反発する波紋を流した馬の陰に隠れ、馬を盾代わりにしていた。 「え、あ!?」 何が起こったのか判らずあたふたしているだけのギーシュと馬の陰に隠れたジョセフに目掛け、何本もの矢が夜闇を切り裂いて降り注ぐ。 「ギーシュ!!」 風を引き裂いて降り注ぐ矢を波紋やハーミットパープルでは防ぐには、少し距離が遠い。 すわ、ギーシュが矢の針鼠になろうかと言うのを救ったのは、突然に現れた小さな竜巻だった。 竜巻は降り注ぐ矢を全て打ち落とし、呆然と馬に乗ったままのギーシュにワルドが声を投げた。 「大丈夫か!」 二人に飛ぶ声に、ジョセフは素早く身を走らせてギーシュを馬から引き摺り下ろし、今度はギーシュの馬に波紋を流して即席の盾とした。 「こっちは大丈夫じゃ!」 チ、と舌打ちしたジョセフは、腰に下げたデルフリンガーを鞘から抜いて構える。 既に戦闘態勢に入っていたジョセフの手袋の中ではルーンが輝いていたが、不自由な鞘から抜け出してやっと喋れる流れとなったデルフは、安堵したかのような声を漏らした。 「ひでえぜ相棒、たまにゃ鞘から抜いてくれよ。退屈すぎて死ぬかと思ったぜ」 「すまんな、すっかり忘れてたわい」 軽口に軽口で返しながらも、矢の飛んできた崖を見上げる。 奇襲が失敗したからか、今は向こうも様子見しているらしく矢が飛んでくる気配は見られない。 「ななななななんだ、夜盗か!? 山賊か!? それともアルビオンの貴族連中か!?」 錯乱して薔薇の造花を無闇矢鱈に振り回しているギーシュの頭を軽く小突いて「落ち着け」と言うのはジョセフの役目である。 「メイジがおるんなら松明や矢なんてまどろっこしいモン使わんじゃろ。と言うよりこっちの夜盗や山賊はグリフォンに乗ったのを襲うほど肝が据わってるんか?」 口に出して考えてみて、その可能性は相当に低いと考える。ハルケギニアでメイジと平民の戦力差と言えば、剣や槍だけで戦車と戦おうと言う事と同義語である。 ただ馬に乗ってるだけなら間違えて襲うかもしれないが、どう見ても見間違えの出来ないグリフォンが月明かりを浴びて空を飛んでいる。 あれに構わず襲い掛かるとなればよほどの自信があるか、それとも戦力差も理解できない本物の馬鹿か。むしろそれよりは、貴族派の手の者と言う可能性が高いだろう。 「まァあれじゃ、あいつらブッちめんとならんからな! ギーシュ、ワルキューレでまずあの炎を消すぞッ!」 「あ、ああ!」 ギーシュが慌てて薔薇を振ると、一枚の花弁が両手持ちの盾を掲げたワルキューレになる。 盾を持ったワルキューレが身を挺し、峡谷を照らし出す松明を消しに行くのを見届けながら、続いてもう一体のワルキューレを錬金する。 そのワルキューレは数日前にジョセフと相談の上でデザインされた、新たな形態のワルキューレ。 巨大なボーガンを捧げ持つように構える両腕を持ち、青銅の弾丸として取り外せる一個4キロ前後の球形で形成された胴体を持つワルキューレ。 ジョセフの求めた性能とギーシュの造詣センスが結実した、芸術的な兵器と称していい一品であった。 会心の出来とも言えるこのワルキューレを見上げ、ギーシュは満足げに頷いた。 「フフフフフ。名前を考えてきたんだ。このギーシュ・ド・グラモンがゴッドファーザーになってやるッ! そうだな……『トリステインに吹く旋風!』という意味の『ヌーベル・ワルキューレ』というのはどうかな!」 「フランス語かドイツ語かどっちかにせーよ」 ギーシュ特有の微妙なネーミングセンスに呆れながらも、腰に結わえ付けていた弦を伸ばし、ワルキューレの力を使ってボーガンに装着させる。 身を挺してワルキューレが松明の炎を消したのを見届けると、ジョセフはヌーベルワルキューレの胴体から弾丸を一つ取り、ボーガンに装填する。 人間の手ではとても弦を引くことすら出来ないボーガンも、ワルキューレの腕力を以ってすれば容易く引き絞ることが出来る。 ジョセフはワルキューレに支えさせたボーガンの狙いを定めると、月明かりの下で僅かに人影が動いた崖目掛けて引き金を引いた。 記念すべき最初の射撃は、僅かに狙いを逸らして賊の立つ足元の崖に命中したが、とても4キロの砲弾とは思えないほどの破壊力で崖を揺らす。 あまりの破壊力に、賊達が狼狽している様子が伝わってくるほどだ。 グリフォンを飛ばせているワルドも、ボーガンの射線からやや離れるように距離をとった。 「ほうほう、さすがは『青銅』のギーシュじゃな。破壊力はバツグンじゃッ!」 「あ、は、はははははっ! そ、そりゃそうさ! 僕の魔法とジョジョのアイディアが結実したヌーベル・ワルキューレならあのくらい出来なくちゃ困るからねっ!」 自分の予想を遥かに超えた破壊力に呆気にとられていたギーシュが、ジョセフの言葉に慌てて相槌を打つ。 まともに食らえば人間なら即死する威力を持つボーガンだが、それをガンダールヴであるジョセフが使えば立派な攻城兵器クラスの殺傷能力を持つことになる。 (それに錬金したばかりの金属は魔力の残りカスがこもっとるからなッ! 魔力に波紋を留まらせてブチ込めるから一石二鳥じゃわいッ) ギーシュとの決闘を経てから、様々な実験を繰り返して得た知識である。錬金した金属に波紋が留まるだけの魔力が残る時間はさほど長くはないが、短い時間だけでもいちいち油を塗らなくてもいいというのは大きなアドバンテージになる。 「うっしゃッ! んじゃさくさくっとやッちまうかッ!」 鴨が葱背負って罠にかかったと思っていた賊達も、鴨は自分達を殺しうる狩猟者らしいと気付いたらしく、慌てて一斉に矢を撃ち続けるが、反発する波紋を流され続けている馬は鏃さえ弾くほどの強固な壁としてジョセフとギーシュを保護する。 照準を修正して放たれた第二射も、賊の足元の崖を揺らすだけに終わった。 だがまるで大砲から放たれた砲弾のように地響きと土煙を巻き起こす砲弾は、命の危険を警告するには十分すぎる役割を果たした。 次には直撃するかもしれない、と恐怖を植えつけるのに十分すぎる光景を見た賊達は、命惜しさに一斉に遁走をかけようとした……が。 上空から大きな羽ばたきが聞こえ、その直後に巻き起こった竜巻の網にかかった賊達は、文字通りの一網打尽となって崖から叩き落された。 決して低くもない崖から地面に叩き付けられた賊達は今すぐ逃げ出すことも出来ないまま、痛みに呻くことしか出来なかった。 「風の魔法じゃないか」 グリフォンに跨ったままのワルドが感心したように呟けば、月をバックにして一頭の竜が街道へと降り立ってくる。 その姿を見たルイズは、驚きの声を上げた。 「シルフィード!」 ルイズの言う通り、それは確かにタバサの使い魔の風竜だった。 地面に降りたシルフィードの背から赤毛の少女が飛び降りると、ばさりと髪をかき上げた。 「はーい、お待たせー」 ルイズもグリフォンから飛び降りてから、キュルケに怒鳴りつけた。 「はーいお待たせーじゃないわよッ! 何しに来てんのよアンタッ!」 「助けに来て上げたんじゃないの。あんな朝早くから馬に乗って出かけようとしてるんだから、これはこの『微熱』のキュルケが助太刀に向かわなくちゃならない場面じゃない?」 シルフィードの上のタバサは、パジャマ姿にナイトキャップという出で立ちだった。 間違いなく無理矢理起こされて追い掛けさせられたのが明白な彼女は、それでも本に視線を落として読書に耽っていた。 「ツェルプストー、私達はお忍びでここに来てるのよ。そんな大きな竜なんか連れてこられたら意味ないじゃないッ!」 「だったら先にそう言いなさいよ。本当に気が利かないわねヴァリエール」 「言ったらお忍びの意味がないじゃないッ!」 「はいはい、そんなにきゃんきゃん鳴かないの。貴方達を襲った連中を捕まえたんだから、礼の一つや二つ言ってもらいたいものだわね?」 「別にアンタ達が来なくても私達だけで退治出来てたわよッ!」 二人の口論をよそに、地面に叩きつけられて身動きも取れない男達は一向に罵声を投げかけ続けている。 ギーシュはワルキューレを新たに用意し、男達に尋問を始めた。 「まあまあ、私達友達じゃない。苦しい時は互いに苦難を分かち合うものよ」 誰が友達よ、とわめくルイズをよそに、キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドにじりじりと歩み寄っていく。 それからいつものように言い寄ろうとしたキュルケだったが、ワルドにけんもほろろに扱われ、しかもルイズの婚約者だということを知るとすぐさま興味を失って鼻を鳴らした。 (何よ、つまんない男ッ! 美女をあんな氷みたいな目で見るだなんて不躾だわッ!) 自分は不躾でないと自負するキュルケは、内心の思いをいちいち口に出しはしなかった。 それからジョセフの方を見ると、彼はすぐに視線に気付いてニカリと普段通りの笑みを見せて手を振った。 ワルドの冷たい目の後で、ジョセフのにこやかな笑みを受ければ普段の三割増くらいに眩く見える。 本当のダンディとはジョジョの事を言うのだわ、とキュルケは思い直した。 体付きだってたくましいしおひげもワイルドだしいい男だし。同じエッセンスだったら人間味のある方がいいに決まってるわッ! と、今度はジョセフに駆け寄って抱きついた。 「ああんごめんなさいダーリン、本当はダーリンに会いたくて駆け付けたの!」 「おおそうかそうか、二人とも来てくれて本当に助かったぞ」 むぎゅ、と豊満な乳房をジョセフの胸板に押し付けながら、横目でちらりとルイズを見る。 いつもならこの辺りで自分に怒鳴りつけてくるはずだが、ルイズは何か言いたそうな顔はしているものの、ワルドが肩に手を置いて留めている。 ちら、とジョセフの顔を伺えば、そんな様子の二人を見て実に不愉快そうな顔をしている。 これはヤキモチというヤツかしら? と思えば、ジョセフが年甲斐もなく漂わせたいじらしい雰囲気に、ときめいた胸に情熱の炎を燃え上がらせた。 かしましく騒ぐキュルケをよそに、男達を尋問していたギーシュが戻ってくる。 「子爵、あいつらはただの物取りだと言ってます」 「ふうむ。ならば捨て置こう、そんな些事にかかずらっている場合ではない」 二人のやり取りを聞いたジョセフは、突然腰を抑えて蹲った。 「あ、アイチチチチチッ! こ、腰がッ! やっべ、朝に打ったしさっきのアレで腰やッちまったかもしれんッ!」 「え!? ちょっと、大丈夫なのダーリン!」 「おい、どうしたんだいジョジョ!」 キュルケとギーシュが蹲ったジョセフに駆け寄るが、ジョセフは脂汗を浮かべながらも心配するなと言うように二人に手を翳した。 「あー、すまんすまん。ちっとここで休憩してから追いつくから、先に行っといてくれんか。なぁに、タバサの風竜に乗ればすぐ追いつくじゃろ」 シルフィードに乗って読書を続けていたタバサは、ジョセフの言葉にこくりと頷いた。 ワルドはジョセフの言葉に、ルイズとギーシュを見やる。 「ではラ・ロシェールで宿を取るから、キミは出来るだけ早く追いついてきてくれ。朝一番の便でアルビオンに渡る」 とジョセフに言い残し、心配げにおろおろするルイズを抱き抱えてグリフォンに乗った。 そしてギーシュも、やや心配そうにしながらもワルドの後ろについてラ・ロシェールへと走り出した。 そこに残ったジョセフとキュルケとタバサとシルフィードは、見る見るうちに夜闇に姿を消す一行の背を見送る。 時間を置かずに一行の姿が見えなくなった頃、ジョセフは何事もなく立ち上がった。 「え? ダーリン、腰はどうしたの?」 「あんなモン仮病じゃよ仮病。まさかあんなわざとらしい仮病に騙されてくれるとは思わんかったがな」 ジョセフが立ち上がったのを見ると、タバサは本から視線を上げた。 「メイジもいないのにあのように立ち向かう物取りは存在自体が不自然」 タバサの言葉に、ジョセフは我が意を得たりと頷き、キュルケも「そう言えばそうよね」と納得した。 「ギーシュはまあボンボンじゃからしょうがないかなとも思うんじゃが、ワルドがそれをあっさりと信じるっつーのも大概不自然じゃろ。しかも相手はグリフォンに乗っとるわけじゃからな。せめてグリフォンはスルーせんと死ぬじゃろ、高さのアドバンテージがなくなるしな」 じろり、と未だ動けないままの男達を眺めたジョセフは、帽子のつばを親指で押し上げる。 「なんか切り札でもあるんかと思ってたんじゃが、二発ほどボーガンをぶちこまれた辺りで逃げ出そうとしよったからな。切り札があるわけでもないのにわしらにケンカ売ってきた連中がただの物取りだなんて信じられるワケがない」 んんー、と大きく伸びをしたジョセフは、改めてデルフリンガーを抜いた。 「おいおい相棒、せっかくの俺っちをもうちょっと使ってくれよ。いくら温厚で知られる俺っちでもあんまり出番がないとスト起こすぜ?」 カラカラと笑うデルフリンガーを、ジョセフはニヤリと笑って曲げた指の背で叩いた。 「まあまあそういうな。ボーガンに番えられて空の散歩なんぞしたくないじゃろが」 「そいつぁ全くだな!」 剣を抜いたまま悠然と歩み寄ってくるジョセフに、男達はありったけの罵詈雑言を投げ付ける。 いくら武器があるとは言え、魔法のようなボーガンを持っていない図体のでかい老人など傭兵達にとっては脅威の対象に成り得ないのである。 「おっしゃ、もう一度聞くとしようか。お前ら本当に物取りか?」 「何度も同じこと言わせんなクソジジイ、俺達が物取りでなかったら何だって言うんだよ!」 紋切り型の憎まれ口にジョセフは頓着もせず、ハーミットパープルを一人の男に伸ばす。 するとデルフリンガーの鞘口から男の言葉が迸る。 「物取りがメイジにケンカ売るわきゃねーだろこのクソ貴族どもがッ!」 突然聞こえた仲間の告白に、男達が一斉に声の主を見るが、その男は顔面蒼白にして「言ってねェ! 俺はなんにも言ってねェぞ!?」と凄まじい勢いで首を振った。 「なるほど。ではなんでわしらを襲った?」 男はせめてもの抵抗とばかりに口を閉じるが、それは無駄な足掻きでしかなかった。 「美人の女メイジと仮面の男に依頼されたんだよ、馬に乗ったメイジどもがやってくるから襲って殺せってな!」 「ほーほーほーほー。そいつァ聞き捨てならん話じゃのー。他に何を依頼された? ついでに言っておくが、わしの魔法は人の心を読むことが出来るんじゃ。正直に言ったら命だけは助けてやってもいいかもなッ!」 そこからは傭兵達の大暴露大会となった。 この依頼をした女メイジと仮面の男の外見と特徴を逐一聞いた三人は、仮面はともかく女のほうはおそらくフーケだろうと目星を付けた。 死刑か遠島前提で牢獄に叩き込まれたはずのフーケがこんなに早く脱獄した事と、自分達がここに来ることを知った上で傭兵を雇ったという事は、王宮内に間諜が少なからずいる上、王女に近い筋にも入り込まれているということである。 「ねえダーリン、話には聞いてたけどトリステイン王宮ってかなり腐ってるわね」 「わしに言わんとってくれ、ついこないだここに来たばかりなんじゃから」 ゲルマニア出身のキュルケとイギリス出身のジョセフは呆れを隠そうともしなかった。 しかも雇い主は言い値で彼らを雇い、前金だけでもかなりの金額を受け取ったことを知ったジョセフは、迷惑料として傭兵達の有り金を全て分捕った。 傭兵達からあらかた事情聴取を終えたジョセフとキュルケは、暗澹たる現状に嘆息した。 「ねえダーリン、ここまで向こうに何もかもバレてるのってお忍びって言うの?」 「一般的には言わんよな」 この分だと、襲撃が失敗したのも向こうには筒抜けだろう。だが相手の心理を考えるに、二重の備えはしていないと踏む。 この峡谷の襲撃で確実に自分達を殺す為に戦力を集中させていただろう。そして向こうは、こちらを侮っていた。 メイジ達を襲撃するというのに、傭兵達だけで襲撃させたというのが何よりの証拠だ。 成功すれば儲けもの、失敗しても被害がない。 それ以上にジョセフの中では、心に根強く根付いていた疑念が確信の花を咲かせていた。 峡谷に弓を射掛けさせた依頼主……フーケはジョセフやルイズに怨恨があるのはどうあっても明白だ。 空を駆けるグリフォンより、峡谷で動きが制限されるジョセフの方が殺しやすいのは確かだ。 しかもグリフォンに乗っているのは風の魔法に長けたワルドである。傭兵が撃って来た矢など風が軽く撃ち落させるだろう。 だが矢が多ければ、竜巻を展開し損ねた、ということにして矢を防げなかったとしてもワルドに手落ちがあるということにはならない。平民が平民の矢で殺されたところで、問題になるはずがない。使い魔の力量不足、で終わる話である。 それがボーガンのあまりの威力で傭兵達が命惜しさに逃げ出そうとしたところを、更なるメイジの乱入でこんな結果になったという訳だ。 完全な証拠を見出した訳ではないが、ワルドが裏切り者でない可能性は非常に低い、とジョセフは踏んでいた。 もし自分やギーシュが乗馬に疲れて置いていかれれば、あの峡谷で待ち伏せした傭兵達に針鼠にさせられる計画が透けて見えた。 早馬で二日もかかる距離を一日で無理矢理踏破させたのは、ジョセフ達を疲れさせて置いてきぼりにしようとしたのではないか。 しかし二人が懸命についてきたから、傭兵達はグリフォンに乗ったメイジのいる一行を襲う物取りを演じなければならない、間抜けな大根役者になってしまった。 そう考えると辻褄が合う。 「キュルケ、タバサ。どうやらわしらは首根っこにナイフを突き付けられとるようだぞ」 ジョセフは肩を竦め、二人に向き直る。その身振りは「大人しくここで帰っとけ、後はわしが何とかする」と雄弁に語っていた。 だがキュルケもタバサも、帰ろうとする様子は全くなかった。 「何言ってるのよダーリン。こんなことくらいで帰るなら、フーケ討伐になんて付き合ったりしないわよ」 恐れも何もない目で、殊更妖艶に笑ってみせるキュルケ。 タバサもページに栞を挟んで、こくりと頷いた。 「それにダーリン、ツェルプストーの女は死地に向かう友人をハンカチ振って見送るだけの薄情者、だなんて醜聞を立てられちゃたまったものじゃないもの。私達は、ただ単に物見遊山でラ・ロシェールに行くだけ。 ゼロのルイズとそのお仲間が行く先がたまたま一緒だからって、私達が行き先を変える必要なんてどこにもありはしないわ。そうでしょう?」 ジョセフはキュルケの堂々たる宣言に、ヒュウと口笛を吹いた。 「キュルケもタバサも、二人ともホントーにいい女じゃな」 緩く腕組みして笑うジョセフに、キュルケは満足げに頷いた。 「それはそうよ、ツェルプストーの女はハルケギニア一の女だもの。タバサも私と同じくらいだけれど。ヴァリエールに飽きたら、いつでも私の胸に飛び込んできていいのよ」 両腕で両胸を挟み込んで、より胸の谷間を扇情的に主張する。 ジョセフは当然口元をいやらしく緩ませるが、ごほん、と大きく咳払いした。 「うちの主人が独り立ちするようになったら、考えさせてもらうわい」 「あんまり長くは待てないわよ」 冗談っぽくめかして、ジョセフとキュルケは馬に乗り、タバサはシルフィードに乗る。 出発する前にたっぷり波紋を流した馬は、勢いよく駆け出し、まだ身動きの取れない傭兵達の群れに突っ込み、哀れに命乞いする彼らを盛大に踏みにじってラ・ロシェールへ駆ける。 次に考えられる襲撃に備え、少しでも次に来る手勢を減らそうという腹である。次回の仕事どころか、これから傭兵稼業を再開するのも難しいのかもしれないが。 馬に乗る二人は必要以上に陽気に馬を走らせ、タバサは月明かりの下で読書を再開する。 三人の向かう先では、ラ・ロシェールが怪しく街の光を輝かせているように、見えた。 To Be Contined →
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ルイズの朝の目覚めは酷く遅かった。 それと言うのも、昨日のホワイトスネイクの『記憶』をDISCとする能力について詳しく聞いていた所為である。 「あー、この時間じゃあ、朝ご飯には間に合わないわね」 「私ハ、何度モ警告ヲ与エタ。ソレヲ無視シタノハ、ルイズ、君ダ」 ベッドで寝覚めたルイズの隣に、ホワイトスネイクは悠然と存在している。 その事実が、ルイズに不思議な安心を与えていた。 絶対なる力が自分の管理下にある、優越感による安心。 それがあんまりにも心地良くて、遅刻しそうなっているはずが、 ルイズの口元は油断すると緩みそうであった。 「っと、いけない。授業にまで遅刻したら流石にマズいわね」 すでにホワイトスネイクによって用意されていた着替えに、袖を通し着替えを始める。 ルイズが着替えている間、ホワイトスネイクは部屋の窓を開け、右手にDISCを一枚創りだす。 その様子を、ルイズは着替えの片手間にちらりと流し見た。 昨日の夜、ホワイトスネイクは自分の能力の他に、自分がどのような存在であるかも語り始めた。 『スタンド』 傍に立つ者と言う意味を持つその単語で表すエネルギー体であると言う言葉に、最初は半信半疑であったルイズだが、ホワイトスネイクが自分の考えたままの行動をし始めてから、『スタンド』の存在を信じるようになっていた。 自分自身の命令で動く使い魔。 しかも、その命令の伝達スピードは凄まじく、まるで自分の身体のようだとルイズは思った。 まぁ、真実、自分の身体な訳だったのだが。 ともあれ、ホワイトスネイクはどんな命令であれ従うし、能力的にもルイズに不満は無い。 まさに、彼女にとってホワイトスネイクは完璧な使い魔であった。 「さてと……そろそろ行くわよ」 着替えを終え、杖を右手に持つと扉には向かわず窓際へ向かう。 窓の外は晴々とした天気で、そろそろ授業の始業時間であることを告げていたので、ルイズは溜め息を吐き、少し急ぐことにした。 「ホワイトスネイク」 「可能ダ」 考えている事を察した自分の使い魔に、頬が緩みそうになったが、それに耐え、凛とした表情でルイズは窓からその身を投げ出した。 それに従うように、ホワイトスネイクも落ちていく。 堕落の中、ホワイトスネイクがルイズの身体を左腕でルイズを抱え、右手でDISCを寮の外壁に押し付ける。簡単なブレーキと言うやつだ。 部屋の窓から身を投げて、僅かに三秒弱。 十分に減速した速度で着地したホワイトスネイクの腕の中で、ルイズは満足げに呟く。 「まぁまぁね」 それは、素直ではないルイズの最上級の褒め言葉であるが、ホワイトスネイクに褒められて嬉しいと言う感情は存在しない。 「ほら、次は教室まで急ぎなさい」 抱えていたルイズを今度は背中におんぶして、ホワイトスネイクは草原を走り出した。 「良かった……ギリギリ間に合った……」 朝食は食べ損ねたが、なんとか授業には間に合うことが出来た。 ルイズは、小さな胸をほっと撫で下ろし、適当な椅子に腰掛けた。 ホワイトスネイクはと言うと、教室前でルイズを降ろした為、彼女の後ろに立ったままだ。 「………………」 「………………」 沈黙が重たい。 急いでいた為、ルイズは気が付かなかったが、ルイズとホワイトスネイクが教室に入ってきた瞬間、今まで雑談をしていた生徒達が一斉に喋るのを止めたのだ。 彼らは皆、昨日のマリコルヌがミンチ寸前にまでされるのを見ていた。 ―――目を付けられたらどうなるか分かったものじゃない。 教室に居た生徒の大多数はそういう思考であった。 無論、大多数と言うことは、そうは思っていない者も勿論居る訳で…… 「おはよう、ルイズ」 情熱で着色したように赤い髪に、それを一層引き立たせる褐色の肌と豊満な胸を合わせもった女生徒の挨拶に、ルイズは満面の笑みで返事をした 「おはよう、キュルケ」 その微笑みに、キュルケは違和感を覚えた。 家柄同士、憎みあう仇敵である自分に微笑むこともそうであるが、それ以上に、今朝のルイズは昨日までとは何かが違った。 「なあに、今日の貴方、ずいぶんご機嫌じゃない」 「そうかしら?」 「そうよ。そんなに使い魔がきちんと召喚できたのが嬉しかったの?」 「別に、使い魔が召喚出来たのが嬉しかった訳じゃないわよ」 これは嘘。ルイズは使い魔が出てきた事に心底喜んでいた。 最も、ホワイトスネイクの能力を知った今となっては、使い魔を召喚した喜びではなく、ホワイトスネイクを召喚した喜びに摩り替わっているが。 キュルケは、そんなルイズの嘘を簡単に見抜いていた。 伊達に一年間、家の因縁とか理由を付けてストーキングをしていた訳ではない。 ルイズの陳腐な嘘など、キュルケには丸分かりなのだ。 あんな亜人でこんなに喜んでいるなら、自分の使い魔を見せたらどんな顔をするのかしら? そんな思考が、キュルケの頭を過ぎり、すぐに自分の使い魔を呼ぶ。 無論、自慢する為にだ。 「そうなの……あ、そうそう、紹介するわ。私のフレイム。 どう、この尻尾。ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」 「ふ~ん」 大して興味の無さそうに返事するルイズに、キュルケは眉を顰めた。 予定ならばここで苦々しげな顔をして、羨ましくなんか無いと言うオーラ全開の、意地っ張ルイズを見ることが出来たのだが、ルイズはこちらに全然興味を持っていない。 「羨ましくないの?」 思わず、キュルケはそう聞き返してしまった。 ルイズの召喚した亜人なんかより、こちらの方が絶対に良い使い魔なのに。 その思考から出された言葉に、ルイズは何を言っているんだ、こいつは? と言う視線をキュルケに返す。 「なんで、私が羨ましがらないといけないのよ?」 自尊心からではなく、本当に、ルイズは不思議そうに聞き返してくる。 それにキュルケは、ホワイトスネイクに視線を向けた。 どうやら、この使い魔。見た目以上にルイズの心を掴む何かがあったらしい。 その何かが、自分のフレイムよりも優れていて、その所為でルイズが羨ましがらない。 知りたい。 ルイズが、自分の使い魔をサラマンダーよりも上位に置いているその理由を知りたいと思い、 ルイズに訊ねようとした時、丁度良く扉が開き、担当の先生が教室に入ってきた。 仕方なく、追求の手を中断するしかないことにキュルケは不満だったが、 昼食の時に聞けば良いかと、席へと戻った。 ルイズは、勤勉な生徒だ。 自身の属性が分からない為、どの属性の授業もきちんと聞き、授業態度も非常に良い。 それなのに、今日のルイズは何時もと違った。 ホワイトスネイク。彼が居る為であった。 (ちょっと! あんたの方も気合入れなさいよ!) (無茶ヲ言ウナ。本来デアルナラバ、私ノ視覚ヲ本体ガ感ジル事ハ、意図モ簡単ニ出来ル事ノハズナノダゾ) (何よ、それって私が駄目な奴って言ってるの!?) (違ウ。昨日モ、言ッタガ、『認識』ガ足リナイ。モット、当然ト、出来テ当タリ前ト思ウノダ) 昨日の夜は、一瞬しか出来なかった。視聴覚への同調。 授業時間を使って、その練習をしているルイズであったが、ぶっちゃけ、うんうんと唸って五月蝿い。 「ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが、そんなルイズの態度に気付き、注意をしようと声を掛けたが、ルイズは気が付かない。 「ミス・ヴァリエール!!」 もう一度、今度は大きな声を出し名前を呼ぶと、ルイズはビクッと跳ねて立ち上がった。 教室中の視線が自分に集まっている事に気付き、顔を真っ赤にして座るが、シュヴルーズは、そんなルイズに前に出てくるように告げた。 「貴方が努力家であると言う事は、他の先生に聞いています。 さぁ、この石を貴方の錬金したい金属に変えてごらんなさい」 他の生徒からは止めた方が良いと野次が飛ぶが、それは、ルイズの負けん気を刺激するスパイスにしかならない。 (あんな凄い使い魔が召喚出来たのよ! 錬金なんて目じゃないわ!!) そう、なんと言っても自分の使い魔は『心』を操り『記憶』をDISCに変える使い魔。 そんな使い魔を召喚した私が、錬金程度できなくてどうする!! 心から成功を確信し、杖を振り下ろすルイズ。 結果は、全てを薙ぎ払う爆発であった。 散らかった机の破片や爆発により砕けた硝子をホワイトスネイクは器用に片付けていく。 その様子を、ルイズは椅子に座って、ぼ~と見ている。 きちんとした使い魔は召喚できた。 召喚できたのに、何故、自分の魔法は一向に成功しないのか。 ルイズは、本当に疑問に思っていた。 自分はゼロなのか? No 何故なら、自分は使い魔を召喚している。 しかも、あんなに素晴らしい力を持っている者を。 では、何故失敗するのか。 ……それはきっと……自分が悪いから? 「ソレハ違ウ」 掃除をしていたはずのホワイトスネイクが何時の間にかルイズのすぐ傍にまで接近していた。 ルイズは、掃除していない事に怒るよりも、ホワイトスネイクの言葉が耳にこびりついて離れない。 「違うって……何が違うのよ」 「ルイズ、君ガ悪イカラ、他ノ連中ノヨウナ事ガデキナイノデハナイ。 君ハ、ソウイウ役割ナノダ。兵士ニ兵士ノ役割ガアルヨウニナ」 「何よ……それって、魔法が使えないのが、私の役割だって言うの…… ふざけないで!! そんな、そんな訳無い!! 魔法が使えないのが私の役割な訳無い!!」 ルイズの怒声に、ホワイトスネイクは何も言わなかった。 世の中には、自分が役割を演じていることすら知らずに居る人間が過半数だ。 別に、彼は自分の本体に、その少数になれとは言わない。 ただ、本体が自分の役割に満足していないのであれば、その欲求を満たすのもスタンドである自分の役目。 「自分ノ役割ガ不満デ、アルナラバ、ソノ場合、話ハ簡単ダ。 欲シイ役割ヲ他人カラ奪エバイイ」 「……奪う?」 随分と物騒な単語にルイズは思わず聞き返す。 役割を奪う……一体、どういうこと? 「生物トハ『記憶』ノ集合体ダ。誰モ彼モガ、ソレヲ知ッテイナガラ『認識』シテイナイ。 マァ、ソンナコトハ、ドウデモイイ話ナノダガナ。 重要ナノハ、先モ言ッタヨウニ、生物ガ『記憶』ノ集合体デアルトコロダ。 ドンナ些細ナ事デモイイ。例エバ、トイレデ、ケツヲ拭ク時ニハ、ミシン目デ紙ヲ切ルトカ、ソンナ些細ナ事モ『記憶』ガアルカラ出来ル事ダ。 ココデ、ルイズ。君ニ質問ダ。 素晴ラシイ料理人ガ居タトシヨウ。彼ノ作ル料理ハ人々ノ舌ヲ満足サセル。 モシモ、ソノ料理人カラ、人々ヲ満足サセル料理ヲ作レル『記憶』ヲ抜イタラ、ドウナルト思ウ?」 「そんなの、作れなくなるに決まってるじゃない」 幾ら腕の良い料理人もレシピも無しには料理は作れない。 同様に、その美味しい料理を作れると言う事実を忘れているのならば、美味い料理なんて作れるはずがない。 ルイズの返答に、ホワイトスネイクは、勉強を教えた子供が、初めて自力で問題を解いた時のように満足げに頷き、そこから、さらにもう一つの問いを口にした。 「デハ、ソノ『記憶』ヲ何モ知ラナイ、何モ作レナイ人間ニ与エレバドウナル?」 先程の問題を飛躍させたものだが、簡単過ぎる問題だ。 記憶が無くなれば作れない。 ならば、記憶があれば作れるようになるに決まってるじゃないか。 「そりゃあ、美味しい料理が作れるように――――――」 答えを形にしている最中、ルイズは止まった。 1秒・・・2秒・・・3秒・・・4秒・・・5秒 きっかりと静止時間5秒を体感した後、錆びた歯車のように不自然に口が動き始める。 「まさか……うぅん、でも、そんなことって……」 うわ言のように漏れる言葉。 それは、否定できないモノを否定する言葉であり、ホワイトスネイクが告げた事が、ルイズにとって、どれだけショッキングなのか、端的に表していた。 そんなルイズの耳元へ囁くように、ホワイトスネイクは優しく語り掛ける。 「君ガ『魔法』トイウモノニ拘ッテイルノハ知ッテイル。 ドレダケ君ガ辛イカモナ。何セ、私ハ君ナンダカラナ。 ナア、ルイズ。トテモ簡単ナ事ナンダ。 君ガ、一言、私ニ命ジテクレレバ、スグニデモ、君ハ新シイ役割ガ手ニ入ル」 その囁きは悪魔の囁き。 だが、ルイズにとっては天使の福音に其の物。 目の前に渇望してやまない物を出され、それを断れる人間など、どれ程居るのだろうか。 少なくとも、ルイズはそれを断れる人間では無かった。 キュルケが、アルヴィーズの食堂で頑張って鶏肉を頬張っているルイズを見つけたのは、昼食の時間が始まってから半分程した頃だった。 パクパクと、小さな口に鶏肉を一杯に頬張っているその様子がリスのようで、下品と言うように感じないのは、ルイズの容姿の所為であろう。 ともあれ、キュルケはルイズに近づこうと足を動かし―――その場で止まった。 なんというか……血走っている。 何がと言うと、ルイズの目がである。 獲物を狙う狩猟者のように鋭い目付きで、鶏肉をがっつきながら、辺りを見回している。 そんな彼女の後ろには、ホワイトスネイクが教室の時と同じように、威圧感を撒き散らしながら存在していた。 声を掛けるのも、近づくのも躊躇われる。 そんな雰囲気を身に纏うルイズに、キュルケは首を軽く振って近づいていった。 「今朝の爆発は、また一段と凄かったわねぇ」 フランクにからかいの言葉を掛けると、ルイズは食べていた鶏肉を皿に置き、口元を拭いながら立ち上がり、自分よりも背の高いキュルケを睨み上げた。 「何、なにか反論でもあるの?」 「――――――ッ!」 反論したくても、反論できない。 何せ爆発したのは事実なのだ。幾ら言葉を用いた所で、その事実を変えることは出来ない。 苦々しげにルイズは、椅子に座り食べ掛けの鶏肉へと手を伸ばす。 キュルケは、その様子に安堵していた。 やはり、ルイズはこうでないと。 今朝のように、余裕を持った態度ではなく、何時も切羽詰り、怒っていて、それでいて、誰よりも努力を忘れない、そんなキャラクターでないと。 ―――そうじゃないと、可愛くないじゃない まぁ、普通にしている時もお人形みたいで愛らしいんだけどね、と心の中でキュルケは呟く。 ここで、彼女の名誉の為に言っておくが、キュルケは同性愛者ではなく、普通の恋愛を楽しめる、普通な少女(?)である。 ここでの、愛らしいとか、可愛らしいとかは、背伸びして頑張っていくルイズを見るうちに目覚めた、母性本能のようなものだ。 まぁ、からかって、それに対して怒っている表情を見て、可愛いとか思っている時点で、母性本能とは、少しばかり離れている感じもしなくは無いが。 とにかく、ルイズの苦悶の表情は、キュルケの母性を刺激する。 なので、今回も、もうちょっと、その顔を、出来ればもう少し、怒った感じの表情見たいなぁ、のノリで、キュルケは悪ノリして、さらにからかいの言葉を掛けようと口を開くが 彼女は知らなかった。 その一言が、自分とルイズの間に、決定的な溝を作ることを。 「まぁ、これ以上責めるのも可哀想ね。例え、使い魔を召喚出来たとしても、『ゼロ』なんだからね」 キュルケには罪は無い。 何時もと同じノリで、軽く、飽くまで軽く口から出た言葉は、何時ものようにルイズの堪忍袋の尾を刺激して…… 「ホワイトスネイク!!!」 プッツーーーーーンと、小気味良い音と共にぶち切れたのだった。 それをキュルケが避けられたのは、奇蹟だった。 突然、鼻がむず痒くなり、人前だと言うのに大きなくしゃみをしてしまった。 くしゃみの反動で下がる頭―――その頭の上、僅か数ミリの所をホワイトスネイクの右手が通り過ぎた。 「えっ?」 最初、キュルケは何をされたのか分からなかった。 ただ、目の前、もう掠っても良い所をルイズの使い魔の右手が 恐るべき速さで自分の頭があった場所を薙ぎ払っていた事だけを認識して、あれに当たっていたら、頭なんて簡単にぐしゃぐしゃになるだろうなぁと場違いな事を思い浮かべていた。 「ちっ」 初撃を外した事に対するルイズの舌打ちが耳に届いた時、キュルケはようやく正気に戻った。 懐から杖を抜き、条件反射で魔法を唱えようとしたが、それは遅きに失した行為だった。 「ぐっ!」 杖を手に掴んだ瞬間に、自らの首もホワイトスネイクに掴まれる。 キュルケは自分を見つめるルイズの氷のように冷たい視線と、慈愛を持ち合わせていないようなホワイトスネイクの体温に、この唐突に訪れた事態が、自分の死である事にようやく気が付いた。 「……あっ」 漏れた単音は、一体何を伝えたかったのか。 キュルケ自身も、それは分からなかった。 ゆっくりと流れていく世界。 一秒が一日のような濃密さの死の淵で、キュルケは自分に振り下ろされるホワイトスネイクの左手を見つめ――― 「そこまで」 止まった。 キュルケも、ルイズも、ホワイトスネイクすらも止まった。 先程のルイズの怒声で皆がルイズ達を見ていたが、 誰一人、突然の事態に対応できなかった中で、ここでようやく事態を把握した第三者が出現した。 それに全員の世界が停止したのだ。 そして、その停止した世界を作り出した少女は、無言でルイズの後ろ姿に杖を向けている。 「タ……バサ」 首を掴まれ、呼吸も儘ならないキュルケの声に唐突に現れた少女―――タバサは眉すら動かさず、ルイズに向けた杖を動かさない。 「やり過ぎ」 タバサは、何時ものように自分をからかったキュルケに対する怒りを爆発させたと思って窘めの言葉を簡潔に述べたが、ルイズの身体は動かない。 ただ、静かに、音を立てぬように歯噛みするだけだ。 「ホワイトスネイク!」 怒りも顕わに、ルイズは使い魔の名前を呼ぶと、ホワイトスネイクは一瞬にしてその姿を、この世界から消失させた。 「「!!」」 首を掴まれていたキュルケも、そしてタバサも驚愕に顔色を変える。 ルイズはそんな二人の顔を見て、僅かに気が晴れたのか、 幾分怒りを和らげた表情になっていたが、それでも回りから見れば、十分にプッツンしている表情だ。 その表情のまま、ルイズは皿に残されていた鶏肉を一気に口の中に入れてから、小人の食堂を後にする。 残されたキュルケは、タバサに助けられて立ち上がりながら、言い過ぎた自分の口を恨むしかなかった。 小人の食堂を出たルイズは、暫く無言だったが、食堂から遠ざかるにつれて口の中で何かを呟き始める。 その呟きは、食堂に居た二人の内の、良い所で邪魔をしてくれた蒼い髪をした少女への呪詛の言葉。 「あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女!!」 なんという所で邪魔をしてくれたのだ。 もう少し、後、もうほんの少しで、あの忌々しいツェルプストーの牛女を永久に黙らせて、ついでに自分の望むモノを得られたと言うのに 「先に私を侮辱したのはキュルケなのよ!! 私は侮辱した事に対する報復をしただけなのに、何故止められなければならないのよ!!」 「少シ、落ツ着クノダ。我ガ本体」 「落ち着ける訳無いでしょう!! ほんの少し、あの幼児体型が邪魔に入るのが遅かったら、今頃、私を『ゼロ』と呼んだあの女を始末していたのに!!」 「……我ガ本体ヨ。コウ、考エルノダ。 アノ女ノ無キ者トスルノハ、マダ時期デハ無カッタ……トナ」 「どういう意味よ?」 足を止め、ホワイトスネイクに疑問を投げ掛けると、昨日の夜のように、ホワイトスネイクの長く分かり難い講義が始まった。 「『運命』トハ、時ヲ戻ソウガ、加速サセヨウガ、決シテ変ワル事ハ無イ。 君ガ、アノ女ヲ殺ス事ガ出来ナカッタノモ、ソウイウ運命ダッタカラダ」 「運命?」 「ソウ、運命ダ。 ルイズ。『ナルヨウニシカナラナイ』トイウ力ニ無理に逆ラオウトスルナ。 逆ラエバ、ヤガテハソノ反動ガ君ヲ襲ウダロウ。 ダガ、逆ニ考エルノダ。運命ニ抗エバ、抗ッタ分ダケノ反動ガ来ルノデアレバ ソノ運命ニ抗ワズ、運命ニ乗ルノダ。 ソウスレバ、キット行為スル道モ開ケルダロウ」 「何よ、それ。つまり、今はまだ、私を侮辱したあの女を生かしておけって事?」 ホワイトスネイクの言葉に、ルイズは若干不満げにそう呟くが、確かに思い当たる節はある。 あの時、確実にキュルケに当たると確信していたホワイトスネイクの右手が、偶然、当たらなかった。 偶然……言い換えれば運命となるその言葉に、どうやらキュルケは守護されていたらしい。 「ソノ通リダ。ルイズ、コレカラノ君ハ、運命ノ流レヲ見極メル事ニ力ヲ入レタ方ガ良イ」 「運命の……流れね」 ルイズは顎に手を当てて熟考する。 運命。 自分の使い魔である、ホワイトスネイクは記憶を操るスタンドだ。 だが、そのホワイトスネイクですら、運命は操れないし、見ることも聞くことも出来ない。 ならば、その運命を気に掛けるのは、使い魔の主である、メイジの役目。 「分かったわよ。これからはその事を心に留めとく事にするわ」 正直な話、運命などルイズにはまったく分からないが、それでも気に掛けとくのと、まったく気にしないのでは、どちらが良いか考えるまでも無い。 「ダガナ……ルイズヨ。一ツダケ言ッテオク事ガ―――」 「おぉい! 聞いたか!? ギーシュの奴が平民とヴェストリの広場で決闘するらしいぞ!?」 「聞いた聞いた、なんでもその平民は、この間、ここに来たばかりの男らしいぞ」 「あぁ、あのデザート配ってた奴か。珍しい黒髪をしてたなぁ……顔も結構可愛かったし……」 最後に一つ。 これだけは伝えなければいけない事柄を伝える前に、ホワイトスネイクの言葉は食堂から出てきたらしい生徒達の話し声に中断を余儀なくされた。 一方、ルイズはホワイトスネイクの言葉の続きよりも、聞こえてきた言葉に聞き耳を立てるのに必死である。 「貴族と平民が決闘だなんて馬鹿じゃないの? まぁいいわ、腹の虫は治まってないし、貴族に楯突いた平民の末路でも見て、気でも晴らしましょう」 まるで何処ぞに散歩に行くような気軽さで、ルイズはヴェストリの広場へと向かうが、ホワイトスネイクはそんなルイズの後を追わずに、その後ろ姿を見ながら中断された言葉の続きを口にする。 「ドンナ運命ダロウト……ドンナ因縁ダロウト……ソイツラハ乗リ越エル。 例エ、腕ガ無クナロウガ、例エ、友ガ死ニ絶エヨウガ、奴ラハ諦メナイ。 アノ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者達ハ。 我ガ本体、ルイズヨ。決シテ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者ヲ敵ニ回スナ。 奴ラニハ如何ナル能力モ、如何ナル力モ、勝利スル事ハ出来ナイ」 故に……『黄金の精神』を持つ者を見つけたなら、味方にすることを考えろ。 元本体の結末を思い出しながら、ホワイトスネイクは心の中で、そう付け加えるのだった。 第一話 戻る 第三話
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test -- (名無しさん) 2013-08-31 14 48 11
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虚無の曜日より、日付を跨いで僅かに三分。 ルイズは中庭で、蒼い髪を持つ少女と対峙していた。 才人とシエスタの姿は無い。彼らは、日付を跨いだ事もあり、すでに自室へと下がっている。 つまり、これより先、ルイズと蒼い髪を持つ少女―――タバサとの会合を止める者など一人も居ないと言う事に他ならない 「まずは・・・・・・お礼を言うわ。 貴方のお陰で、予定より早く、学院に帰る事が出来たんだから」 助かったわ、と告げるルイズに、タバサは僅かに首を動かし、その言葉を受け取る。 「でも―――」 二の句を継げるルイズの声色が変化する。タバサにとって最も身近で、最も嫌悪すべき感情を内包して。 「貴方が放った氷の矢・・・・・・痛かったわ。死ぬ程ね」 憎悪が爛々と燈る瞳は、もしも眼力だけで人を殺せるなら、13回はタバサを睨み殺す程の殺意を秘めていた。 だが、その殺意もすぐに飛散する。 ルイズ自身が瞳を閉じ、タバサを見つめるのを止めた為にだ。 「貴方は・・・・・・危険。だから、あの時は、殺すしかないと考えた」 キュルケはタバサにとって、掛け替えの無い大切な友人だ。 タバサ自身、自分の愛想が悪いことは理解している。 こんな自分に友人が出来るはずも無いと考えていた。だと言うのに、キュルケは自分に対して、まるで当たり前のように親しく接しくれる。 嬉しかった。 母親の再起と、父親の仇への復讐に生きていただけのタバサに、誰かと一緒に居る事の楽しさを思い出させてくれた。 その事実が、タバサにとって、ただ只管に嬉しかった。本当に嬉しかったのだ。 そんな友達を、目の前に居るこの女は才能奪い、あまつさえ殺す所であったのである。 「危険・・・・・・危険ね・・・・・・確かに、あの時、私は考え無しだった事を認めなければならないわ。 あの時の軽率な行動で、私は大切な友達を失う所だったんですもの」 虚空に視線を漂わせ、自然と口から紡がれたルイズの言葉に、タバサは目を大きく見開き驚きを表現してしまう。 「それは・・・・・・どういう意味?」 「・・・・・・あの時、キュルケは私を庇ってくれた。それで、ようやく分かったのよ。 キュルケは、私にとって本当に大切な人だって事に」 正確に言うならば、それは切っ掛けであり、本当に大切な友人であると確信したのは、後にキュルケの『記憶』を確認した時だが、そこまで伝える理由など無い。 「貴方は・・・・・・もう、彼女を殺すつもりも、才能を奪うつもりも無い?」 「決まってるじゃない。友達にそんな事出来ないわよ」 堂々と宣言するルイズの瞳は、先程の殺意は微塵も感じられず、高潔な輝きが見て取れる。 タバサには分からなかった。 あの戦いの時の、まるで世界全てを憎むかのように嘲笑していた少女。 それとも、今、目の前で、真っ直ぐ過ぎる瞳をしている少女か。 タバサには、分からなかった。 一体、どちらが本当のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのかが。 どちらが本当なのか、或いは、どちらも本当では無く、今だ彼女には隠された本当が存在するのか。 そこまで考え、タバサは頭を振った。 違う、今はそんな事を考えている時では無い。 今、ここに居るのは、目の前に佇む者に問うべき事柄があるからだ。 「訊ねたい・・・・・・事がある」 本題を切り出す。 訊ねなければならない事柄。 確認しなければならない事象。 「精神的に壊れていた彼を、貴方は治した・・・・・・どうやって?」 要約し過ぎた問い掛けに、ルイズは首を傾げた。 彼とは誰か? それに治したとは? 自分は、果たしてそんな事をしたのだろ――― 「―――あぁ、ギーシュの事ね。 何、あいつを治した事が、どうかしたの?」 別段、特別さを感じる事の無い抑揚の声に、彼女にとって、ギーシュを治した事が、本当になんでも無い事である事を表している。 「貴方が・・・・・・彼を治した?」 「正確に言えば、私じゃあ無いわ。こいつよ」 そう言って指し示す方向には、二つの月明かりに照らされたホワイトスネイクが銅像のように微動だにせず、ルイズとタバサ、二人を視界に収める形で立っていた。 「貴方の使い魔が、彼を治した?」 「そうよ」 「どうやって?」 「どうやってって・・・・・・」 怪訝な顔付きで、ルイズは疑問を投げ掛け続ける少女を見る。 授業なので見かける彼女は、無口を極めたように何事も語らない事が多い人物だ。 だと言うのに、今の饒舌めいた問いは一体なんだと言うのか。 「ねぇ、逆に聞くけど、どうして治した方法を知りたいの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ここまで彼女が熱心になる理由をルイズは尋ねたが、帰ってきた答えは沈黙だった。 答えたくない。 もしくは、踏み込まれたくないか。 大方その辺りだろうと、当たりを付けたルイズは、敢えて答えを促さなかった。 言いたいのであれば、彼女は語るだろうし、言いたくないのであれば語らない。 確かに少し気になる事ではあるが、飽くまでそれは少しだけの興味だ。 何も、無理矢理に聞きたくなる程では無い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 沈黙が続くタバサに、ルイズはホワイトスネイクに視線だけで合図を交わす。 ホワイトスネイクは微動だにしなかった身体を動かし、タバサへと近づいていく。 「アノ男ハ、治ッタノデハ無イ。忘レタダケダ。 マァ、広義的ニ見レバ治ッタト言ウ表現モ間違イデハ無イガナ」 「治ったのでは無い―――?」 静かに語りかけるホワイトスネイクに、タバサは呆然と語りかけられた言葉を反芻する。 「ソウダ、治癒トハ、根源ニ病巣ガ無ケレバ成リ立タナイ行為ダ。 ツマリ、新シク、治癒ト言ウ『記憶』デ病巣ヲ上書キシタト言ウコト。 私ガ、アノ男ニ行ッタ事ハ、治癒トハ、マッタクノ逆ニアタル。 私ハ上書キスルノデハ無ク、ソレマデノ『記憶』ヲ病巣諸共奪ウ」 「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・」 「人間ハ『記憶』ニ異存スル生キ物ダ。自分ノ体調ハ勿論、ソノ他ノ事柄モ全テナ。 酒ヲ呑ンデイナイ人間ニ、酒ヲ呑ンダト言ウ『記憶』ヲ与エレバ、与エラレタ人間ハ、呑ンデモイナイ酒ニ酔ウダロウ。 ツマリ、ソウイウ事ダ。『記憶』ヲ抜カレ、自分ガ壊レタ事スラ忘却サセレバ、人ハ壊レル前ノ『記憶』ニ基ヅイタ人間ヘト戻ル」 完全なる忘却。 今まで歩いてきた道を奪い、壊れてしまったその時まで強制的に引き返させる。 「治すのではなく・・・・・・戻す・・・・・・」 「ナルホド、物分リハ良イラシイナ」 納得するかのように頷くタバサに、ホワイトスネイクは感心からか、賛美を口にする。 なるべく簡単に説明したつもりであったが、まさか、こうまですんなりと理解してくれるとは、ホワイトスネイクも考えていなかった為にだ。 だが、そんな賛美は彼女にとっては関係無い。 理屈は理解できた。 予想していたモノとは、若干掛け離れた方法であったが、それでもタバサにとっては十分望み通りの働きをしてくれるだろう。 差し当たっての問題は、どのように頼むかだ。 生半可な言葉は恐らく通用しない。 いや、それよりも、自身を殺そうとした者の頼みなど果たして聞いてくれるのだろうか。 「何を考えているかは知らないけど、早くしてくれる。 朝っぱらから出掛けてた所為で、眠たいんだけど?」 見せ付けるかのように欠伸をするルイズを見て、決意を固める。 真っ向から正攻法で頼む以外、自分には道など無い。 キュルケに仲介を頼むと言う手段もあったが、このような事に彼女を巻き込みたくは無かった。 「貴方の使い魔に壊れる前の状態に戻して欲しい、人が居る」 「・・・・・・私は医者じゃないし、こいつも当然違うわ」 「彼の事は?」 「ギーシュの時は、才能を返すついでよ」 本当は、ギーシュとモンモラシーに同情していたキュルケの悲しそうな横顔を嫌って、壊れる前の状態に戻したのだが、そんな事をタバサに知られるのに抵抗があったルイズは、出任せを述べた。 「嘘」 ささやかな過ぎる程度の虚偽であったが、タバサは、その虚偽を見抜いていた。 「嘘じゃないわ」 幾分ムキになったかのように反論するルイズに、タバサは口を開こうとするが、止める。 先程と同じように、また脱線してしまっている。 元の道筋に修正しなければ。 「貴方が医者でも無ければ、私を恨んでいる事も知っている。 だけど・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・」 そこで一旦言葉を区切り、次に紡ぐべき言の葉を探すように中空へと視線を漂わす。 その間、ルイズもホワイトスネイクも、決して言葉を挟まず、タバサの口から紡がれる音を待っていた。 やがて、虚空へと向けられていた視線が、ゆっくりとルイズへと向けられた時、タバサは続きを口にする。 「例え、それがどんな苦難がある事だろうと、私が出来る事ならなんでもする。 だから、お願い・・・・・・・・・・・・私の頼みを、聞いて欲しい」 言葉一つ一つに想いを込めた懇願。 その重さは、計り知れない程に重く、懇願されているはず立場だと言うのに、ルイズは息苦しさを感じてしまう。 「なんで、あんたがそこまで必死なのかは知らないわ」 息苦しさを紛らわす為に、ルイズは口を開く。 「人に言えない事情とやらがあるんだろうけど、私にそれを聞く気は無いわ。 そりゃ、気にはなるけど、あんたは話したくないから故意に伏せてるんでしょうからね。 他人が話したく無い事を無理に聞き出すような野暮な真似、私はしないわ」 最も、自分に対しての事柄は、これには当て嵌まらないが。 「ともかく・・・・・・あんたが、そこまで必死に頼んでくるなら、私も考えないでも無いわ」 何も減るものでは無いし、頼みを聞くのは構わなかったが、ルイズは一旦、そこで言葉を止めて考える。 相手は、自分の事をあそこまで傷つけたメイジだ。 あの時、キュルケから才能を奪った事は間違いだと認めるが、 だからと言って、ボコボコにされたのを忘れろと言うのは無理な話である。 早い話が、ルイズはタバサに対して一泡吹かせてやりたいと思ったのだ。 「頼みを・・・・・・聞いてくれる?」 「まぁね、でも、条件があるわ」 そこで、ルイズは首に手を当て、考えた。 どのようにすれば、目の前の少女に付けられた傷の鬱憤を晴らせるのか。 才能を捧げさせる事が真っ先に頭に浮かんだが、忌々しい事に、この娘はキュルケと仲が良い。 (何か・・・・・・何か無いかしらね) キュルケの中で自分の株が落ちる事無く、尚且つ、相手に自分と同じぐらいの痛みを与える方法。 言わば、直接的でなく、少女が自発的に行う形の苦痛。 ホワイトスネイクの能力使用が頭に浮かぶが、万が一にも頭部からDISCが抜け落ちたりすれば、事が露見する危険性がある。 かと言って、他に思いつく方法も無いが。 (他人にバレても良いDISC? そんなものある訳無いじゃない) 露見しても、別段罪に問われないのは、相手に有益になるモノだけだ。 ホワイトスネイクのDISCにそんなものなどあるはずが―――――― 「あっ」 思わず漏れてしまった単音に、ルイズは思わず手で口を塞ぐ。 それは、咄嗟に浮かべてしまった、あまりにも邪悪な笑みをきっちりと隠していた。 「これを・・・・・・あんたが使いこなせるようになったら、あんたの頼みを聞いてあげる」 その言葉と共に、ルイズはタバサへ一枚のDISCを投げる。 「これは・・・・・・」 投げられたDISCの表面には、右半身が砕けた人型が映っている為、ギーシュの頭から落ちたDISCとは、何かが違うと言うのは、タバサにも理解できた。 (ルイズ) (何よ?) 厳しい面持ちでDISCを見つめているタバサを横目に、ホワイトスネイクの幾分焦れたような声がルイズの頭に響く。 (何ヲ考エテ、アレヲ渡シタノカハ知ラナイガ、今スグニ考エ直シタ方ガ良イ。 アレハ、他者ニ渡シテ良イ程、生易シイ力デハ無イ) (それは使いこなせたらの話でしょ? 確かに、こいつは強いけど、アレを扱えるかって言うと、また別問題じゃない?) なんやかんや理屈を付けてはいるが、要するに、ルイズはタバサが無様に吹っ飛ぶ姿が見たいのだ。 あの時、自分が、あのDISCを挿し込み吹っ飛んだように。 「それに入ってるのは、簡単に言うと使い魔みたいな存在よ。 スタンドとか言う種族だけど、扱えれば並の魔獣、幻獣なんかより、よっぽど強力って言うね」 ルイズの何処か楽しげな説明に耳を傾けつつ、タバサは、これが果たして安全かどうかを思慮していた。 確かに、ギーシュの頭から落ちた物とは違うのは見て分かるが、それでも得体の知れない物である事に変わりは無い。 最悪、相手がこちらを謀殺しようとしている可能性もある。 タバサは、ちらりと、自分の後ろで夜空を見上げている使い魔にアイコンタクトをする。 ギーシュの時は、頭部に強い衝撃を与えたら、原因と思しき円形の物体が出てきた。 ならば、もし、自分が死ぬような暗示が、この円形の物体に入っていたとしても、シルフィードに尻尾で自分の頭を殴らせれば良い。 多分、凄く痛いだろうけど。 すぅ、と息を吸い込み、タバサは覚悟を決めた。 「はぐぅ―――ッ!」 頭部が裂け、その間に形ある物挿し込まれていると言うのに、痛みは不思議と無かった。 だが、それでも、得体の知れない奇妙な物体を自分の頭に入れていると言う事実が、タバサの口から声を漏れさせた。 そのあまりに嗜虐心を刺激する声に、ルイズは思わず生唾を飲み込む。 「――――――ンッ」 艶かしさとは、また違った色気を纏ったタバサだったが、頭部に完全にDISCが挿入されると、様子が一変した。 パクパクと酸素を求める金魚のように口を開閉しながら、両手で胸の辺りを押さえ始めたのだ。 「きゅい~」 尋常で無い様子に、彼女の使い魔の風竜は心配そうな声で鳴くが、タバサは喘ぎながらも風竜に大丈夫と告げる。 (ちょっと!!) タバサのそんな様子に、ルイズは不満たっぷりの声をホワイトスネイクに掛ける。 (どういうことよ!! なんであいつは苦しそうな顔してるだけで吹っ飛ばないのよ!! おかしいじゃない!!) 予想とは違った光景に文句を吐くルイズであったが、ホワイトスネイクは言葉を返す事は無く、油断の無い目つきで、タバサを見据えている。 相変わらず、タバサは何かを耐えるように両手で胸を押さえ込んでいた。 「ちょっと返事ぐらいしなさいよ!!」 何時までもホワイトスネイクから返答が来ない事に、腹を立てたルイズが、思わず怒声を上げてしまうが、それはこの状況において取ってはいけない行動の一つだった。 「ダメッ!!」 タバサの悲痛な叫びに、ルイズは何がダメなのよ! と叫び返そうとしたが、口が動かない。 (なっ!!) いや、口だけでは無い。 喉も、瞼も、指も、足も、何もかもが動かない。 (何よ、これ!?) 自分だけでは無い。ホワイトスネイクも、あの風竜も、草も、雲も何もかもが『静止』している。 静寂と停止を約束された世界。 その中で動くのは、今にも泣きそうなぐらいに苦しげな表情をしているタバサと、何時の間にか彼女の横に立っていた、黄金色に輝く右半身が欠けた人型のみだった。 (あいつ・・・・・・ホワイトスネイクと同じ感じがする・・・・・・) 身体が動かないと言う危機的な状況であると言うのに、ルイズはそんな事をぼんやりと思っていた。 だが、次の瞬間に身を固くする。 人型が、ゆっくりとルイズへと向かって動き始めたのだ。 ゆらりゆらりと、人型が動く中、ルイズは喉一つ動かせず、唾液を嚥下することすら出来ない。 (やばいわね・・・・・・このままだと) さっき、ホワイトスネイクに言われた言葉が、今になってようやく分かった。 なるほど、確かにこれは他者に渡していいような力では無い。 他者を動けなくする能力とでも言うのか。 あらゆる者を停止させ、その中を自分だけが動ける。 (圧倒的じゃない) ホワイトスネイクが最強と呼んでいたのも納得する。 戦う者として、これほどまでに圧倒的な能力は存在しない。 「―――ダメッ!」 タバサが呟いた言葉に、思考に集中していたルイズは、黄金色の人影が自分の目の前にまで到達し、尚且つ、隻腕を振り上げている事に気がついた。 (マズいマズいマズいマズいマズいマズい!!!!) 能力の考察などしている暇では無い。 今すぐにこの力から逃れ無くてはならない。 でなければ、自分はあの隻手で土手っ腹に風穴を開けられてしまうと言う、考えるのもおぞましい結末になってしまう。 必死に拳から逃れようと、身を捩ろうとするが依然として静止空間は続いている。 (動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動きなさい!!) 必死の祈りが通じたのか、拳が腹部を貫く寸前に空気が、風が、そして身体が動き始める。 「動けェええぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇ!!」 喉も動くようになり、ルイズの口からは思考とまったく同じ形の意味が声となり周囲に木霊する。 『無駄ァァァ!!』 しかし、その動きすら砕くと言わんばかりの拳圧が彼女の横っ腹に喰らいつく。 「―――ッ!!」 痛みに顔を顰めるルイズであったが、幸いにして脇腹の肉が多少削げた程度と軽傷であった。 ギリギリだった。 後、もうほんの少し、静止空間が続いたなら、かすり傷どころの話では無かっただろう。 安心するのも束の間、ルイズは無理な体勢になった為に倒れてしまった身体を起こす事も無く、即座に人型の砕けている右半身の方向へ転がる。 服が汚れるのも気にしない。命には代えられないからだ。 転がり、人型の背後へと回りこむと、ホワイトスネイクの手を借り一瞬で体勢を立て直し、杖へと手を伸ばすが、詠唱を開始したところで、ホワイトスネイクの腕が顔の前に出され、その動きを制止した。 (落チ着ケ。ソシテ、良ク見テミルトイイ) 頭に直接響いてくる声に、ルイズは杖に手を掛けたまま、自分の脇腹を掠め取っていった人型を見る。 『無駄アァァァァァ!!』 相変わらず人型は、奇妙な叫び声を上げつつ拳を振り上げ、渾身の力を持って殴りつけていた――――――壁を。 「はっ?」 察し難い人型の行動に、ルイズは思わず呆けたような一声を発してしまう。 いやいやいや、少し落ち着きなさい私。 ほら、息を吸って、吐いて、吸って、吐いて――――――さぁ、もう一度。 『無駄無駄無駄無駄!!』 やっぱり壁を殴っている。 あんなに圧倒的な力を持っていながら、何故に壁を? 理解の範疇を超えまくってる光景に、ぽつーんと突っ立っていたルイズだったが、後ろから聞こえてきた、呻くような声に振り返る。 人型の後ろに回りこんだと言う事で、ルイズは人型とタバサの丁度中間点に居た。 と言う事は、つまり、後ろから聞こえてきた呻き声の持ち主は、蒼色の髪の少女でしか有り得ない。 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァハァ・・・・・・」 「ちょっと、大丈夫?」 先程から額に汗を浮かべ、呼吸を荒くしているタバサに、ルイズは不機嫌な声ながらも体調を気遣うような発言をする。 無論、ルイズにはタバサの体調を心配するような殊勝な心がけなど一切無く、所謂、社交辞令のようなものだ。 本音を言うと、そのまま、くたばってしまえば良いのにとか考えていたが、それはそれで面倒な事になる。 そんな事をルイズが考えている中で、一際大きな音が、人型が殴っている壁から聞こえてきた。 どうやら、断続的な拳打に耐えられず、とうとう壁が崩壊したらしい。 「あ~、もう! どうしてこうなるのよ!!」 下手をしたら、また謹慎期間が延びてしまうであろう事態に、ルイズは心底苛立った声を上げる。 本当なら、タバサが吹っ飛んだ姿を拝んだ後に、即座に自室のベッドで寝息を立てているはずが、どういう訳か、怪我も増え、おまけに大切な睡眠時間も刻一刻と減っていく。 ままならないとは、まさにこんな事を言うのだろうとルイズは思ったが、よくよく考えてみれば、自分が横しまな考えを抱かず、タバサにDISCを渡さなければこんな事態にはならなかったのだ。 つまり、今のルイズの状況は完全に自業自得であったりしたが、その考えにまで至った所で苛立ちは治まらない。 むしろ、膨れ上がるのがルイズの性格であった。 「とりあえず、あんたはさっさとあいつを消しなさい!」 顔色が青くなりだしたタバサに、一階の壁を破壊し尽くし、今度は一階の破壊の影響でヒビだらけの二階の壁を殴り始めた人型を消すように声を掛けるが、タバサからの返事はゼィゼィと喘息患者がするような呼吸音だけだ。 「ルイズ・・・・・・ドウヤラ彼女ハ、ソレ所デハ無イヨウダガ」 「そんな事は分かってるわよ」 あっけらかんとしたルイズの態度に、ホワイトスネイクは肩を竦める。 「何モ、消スヨウニ命ジナクトモ、私ガ、マタDISCニ戻セバ良イダロウニ」 呆れたように呟くホワイトスネイクの言葉に、ルイズは一瞬硬直した。一瞬だけ 「そんなことが出来るならもっと早くやりなさいよ!!」 次の瞬間には、顔を真っ赤にして自分の使い魔へと怒鳴りつけていた。 怒鳴りつけられたホワイトスネイクは、タバサの頭からスタンドDISCを、即座に引き抜く。 その一動作で、今まで破壊の限りを尽くしてきた右半身の砕けた人型は、何の余韻も残さずにキレイさっぱりこの世界から消失した。 大規模な破壊の爪痕を残したまま。 「どーすんのよ、これ」 途方に暮れて呟くルイズであったが、どうにもこうにもなるはずが無い。 一階は言わずもがな、見ると、五階にある宝物庫の壁にまで見事にヒビが入っている。 「きゅいきゅい」 ぐったりとしているタバサを器用に自分の背に乗せた風竜が、これまた器用にルイズの肩を翼でぽんぽんと叩く。 恐らく慰めているつもりなのだろうが、今のルイズにとっては煩わしい事、この上ない。 「止めなさい」 「きゅいきゅい」 「止めなさいってば」 「きゅ? きゅきゅきゅい!!」 「だから、止めなさいってば!!」 しつこい慰めに、怒声で返答したルイズだったが、すぐにその身体はホワイトスネイクによって竜の背に吹っ飛ばされる。 「なっ!?」 主に手を上げた!? と頭に血が一瞬で上ったが、目の前に飛び込んできた光景に、ルイズは、ただ口をあんぐりと開けるしかなかった。 土の塊が、音も無く蠢き、全長30メイルにもなるゴーレムが誕生しようとしている光景が、そこには存在していた。 フーケは、舞い降りた幸運に小躍りでもしたい気分だった。 宝物庫の弱点である物理的衝撃について考えあぐねていたフーケの前に現れた二人の少女。 どちらにも見覚えのあったフーケは咄嗟に身を隠し、その場を観察していたが、 やがて、一人の少女が苦しみ始めると、突然現れた亜人が学院の壁をどんどん壊し始めたのだ。 その衝撃的な光景に、思わず呆けてしまったが、その亜人がどんどん壁を壊していくのを見るにつれて、フーケは思いがけない幸運が舞い込んだ事に気がついた。 どういう訳か、特別に頑丈に作られ『固定化』の魔法まで掛かっている学院の壁を、隻手隻脚の亜人は、いとも簡単に壊している。 その破壊は、放射状にヒビを発生させ、そのヒビ割れが宝物庫まで届くと同時に、もう一人の少女の使い魔が、苦しみ始めた少女に何事かをすると、壁を破壊していた亜人は、一瞬にして消えてしまった。 「なんだか知らないけど、これはチャンスなのかねぇ」 自分のゴーレムでは無傷の壁を破壊するのは不可能だが、ヒビの入った壁となれば話は違う。 ニヤリと歪められた口から詠唱が紡がれる。 それは、魔力と土を媒介とし、彼女の目的を果たす為の存在を作り上げるのであった。 「何なのよ、もう!!」 空へと舞い上がったシルフィードの背中で、ルイズは思い通りにいかない事態に、金切り声を上げていた。 彼女の眼下では、ヒビが入り脆くなった壁に、ゴーレムがトドメを刺している。 「宝物庫」 顔色は優れなかったが、なんとか意識を保っているタバサが、ゴーレムにより壊された壁の中に入り込む人影を見て、そう呟いた。 「宝物庫って・・・・・・それじゃあ、あいつ!?」 そういえば、モット伯の『記憶』DISCに、この頃、貴族相手に盗みを繰り返している土のメイジが居る事が記されていた。 確か名前は・・・・・・ 「『土クレ』ノ、フーケ・・・・・・ダッタナ」 シルフィードの前足に掴まっているホワイトスネイクが、その名を口にする。 『土くれ』のフーケ 貴族の屋敷の壁や金庫などを、錬金の魔法より、まさに『土くれ』に変えて盗みを働くと言う強力な土系統のメイジ。 また、錬金が効かない場合などは、攻城戦でも出来そうな巨大なゴーレムを従え、貴族や衛兵などを蹴散らし、目的の物を奪っていく。 まさに怪盗と呼ぶに相応しい人物なのであった。 眼下に居るゴーレムは、サイズから見ても、まず間違いなくフーケが作ったものであろう。 となると、次なるフーケの目的は、このトリステイン魔法学院の宝物庫の何かと言う事になる。 「この私の目の前で、盗みを働こうなんて随分生意気じゃない!!」 喜々とした表情でルイズが杖を振るうと、杖の回りの空気から水分だけが抽出され、巨大な水泡が生成される。 その水泡は、ふわふわとゴーレムの上空に漂っていき、一気に弾けた。 「よし!」 ゴーレムに確り水が被った事を確認して、ルイズは右手の杖を今度は、先程より激しく振るう。 乗り慣れたシルフィードの背で、どうにか気分が落ち着いてきたタバサは、今、ルイズが何をしようとしているのか、見当がついていた。 どうやら彼女は、土で作られたゴーレムに水をたっぷり染み込ませ、その水を操る事でゴーレムの操作系統を奪おうしているらしい。 最初は、あまりにも常識を逸脱した魔法の運用に、タバサは呆れたが、ゴーレムの動きが見る見ると鈍くなっていくのを目の当たりにすると、その呆れが間違ったものであると認めざろうえない。 「くっ―――」 ならば、自分も手伝う為に水をゴーレムに掛けようと杖を手にしたが、呪文を紡ごうにも、力が入らない。 原因は分かっている。先程のDISCの所為だ。 自分でも良く分からなかったが、あの半身の欠けた人型が現れている最中、自分の精神力や体力など、とにかく生きるのに必要なモノが、どんどん自分の身体から、人型に流れていったのが、感覚的に理解できた。 特に、あの静止した空間の消耗は半端では無かった。 正直な話、もし、あの空間が、ほんのちょっぴりでも続いていたら、自分は衰弱死していただろうとタバサは思っている。 一秒にも満たない程度の僅かな『静止』であったが、それだけでもタバサの身体に、信じられないぐらいの負担を掛けていたのだ。 「あんたは休んでなさい」 タバサの詠唱の気配を察知したのか、ルイズが下のゴーレムを見据えたままで、そう告げる。 確かに、今のタバサは呪文一つ、まとも唱えられないだろうが、だからと言って、目の前で行われる不正を見逃せるかと、問われればタバサは首を横に振るだろう。 「頑固なのね、あんた」 相変わらずタバサの方を見ないルイズであったが、言葉の韻に何処と無く今までに無い響きが混じっている。 が、次の瞬間には、全ての感情を一つの言葉にしてルイズは紡いでいた。 「ホワイトスネイク!!」 自らの使い魔の名を叫ぶその声にはどうしようも無い程の焦燥が込められており、それは―――――― 「仕留めた・・・・・・?」 シルフィードの眼下、ゴーレムの肩の上に戻ってきたフーケは、今、ゴーレムから放たれた岩石が風竜を絶命させたかどうかの疑問を口にしていた。 宝物庫から戻ってきてみたら、たっぷりと染み込んだ水によって動きを鈍くさせられていたゴーレムにフーケは歯噛みしたが、それが空を飛んでいる風竜の上に居る少女によって行われている事に気付くと、魔力をゴーレムの右腕に集中させ、壁の破片を対空砲火のように、風竜へと放り投げたのだ。 ただの岩石ならば、シルフィードも避けることも出来るのだが、フーケは投げる瞬間に、岩石を砕いていた。 その為、散弾銃のように拡散した石の雨に、シルフィードは晒され、無防備な腹にしこたま石の飛礫を喰らってしまったのだ。 「まぁ、こんなもんだろうね」 ゴーレムの動きが正常に戻った事を確認してから、フーケはそう呟き、さっさと学院から離れるように、指令を下すのであった。 「きゅぅ~~~」 「だあぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛がってないで、さっさと翼を動かしなさいよ、コラァ!!」 頭部への石は、全てホワイトスネイクに弾かせたが、それ以外の箇所に石がモロに入ってしまったシルフィードは、痛みのあまりに翼をはためかす事を忘れ、その身を重力に引かれ、地面に激突20秒前である。 「シルフィード!!」 叱咤するタバサの声に、ようやく翼を動かし始めるシルフィードであったが、翼にも石は当たっており、どうしても力強く羽ばたく事が出来ない。 「きゅいきゅいー!!」 言葉で表すとしたら、ごめんなさいと言うのが適切であろう鳴き声を上げるシルフィードが地面と落ちる寸前、その身体が宙へと浮く。 ギリギリで、ルイズが『レビテーション』の呪文が唱え終わったのだ。 危機を脱した事に安堵するシルフィードであるが、ルイズとタバサは、ゴーレムが城壁を一跨ぎで乗り越えるのを、唇を噛み締めながら見つめるしかなかった。
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才人は、今まで馬に乗った事など無い。 元の世界では、バリバリのインドアタイプであった才人が、馬と触れ合う機会などある訳が無いし、仮にあったとしても、馬に任せて走らすのが関の山だろう。 だと言うのに―――――― 「こら~、もっとスピード上げなさい。 こんなんじゃあ、街に着く前に夜になっちゃうわよ~」 「あの……ミス・ヴァリエール。やはり、私がやった方が……」 「良いんですよ、ミス・ロングビル。 今は使用人の教育期間ですから。馬車の御者ぐらいさせませんと って、こらっ! 揺れが激しくなってきたわよ! もっと揺らさずに走りなさい!!」 「無茶言うな!!」 たは~、と溜め息吐く才人は、馬の手綱を確りと握り、あ~でもない、こ~でもないと必死に操作するのであった。 (とほほ……なんでこんな事に……) 思い出すのは今朝のやり取りである。 「サイト、今日は街へ行くわよ」 虚無の曜日。 元居た世界なら日曜に相当するその日も、休む事無くルイズの世話をしていた才人は、唐突に出された言葉に、目を丸くした。 「街に? 何、買い物でも行くの?」 ちなみにこの時点で才人は、もうすでにルイズに対して敬語を使っていない。 と言うか、普段からあまり敬語を使わない才人は、誰に対してこうである。 最初の頃は、それが気に食わなかったルイズであったが、もう慣れてしまったので何も言わない。 「買い物ねぇ……そういえば、あんた武器を持つと強くなるんだっけ?」 「えっ? 何言ってんだお前?」 思い出したかのように呟くルイズに、才人は頭大丈夫かと言うニュアンスの視線を送ると、思いっきり急所を蹴り上げられた。 「おまっ……オレの…………切ない部分を…………」 「使用人なら自分の役割ぐらい、きちんと認識しときなさいよ!! あんたの手にあるルーンはね、武器を持ったら、滅茶苦茶強くなるって言うルーンなの!?」 確か、そうよね? と後ろに待機しているホワイトスネイクに振ると、肯定の返事が返ってくる。 「ほらね、私の言ったとおりでしょ? 分かったらさっさと、準備して馬を駆りに行くわよ。 あっ、うん、やっぱり馬車ね。まだ怪我が完全に治ってないから、傷に響くの嫌だし って、何寝てるのよ! ほら、早く起きて、さっさと馬車を借りてきなさい! 早く!!」 「お前…………マジで無茶言うな……」 切ない部分の痛みに気絶しそうな才人は、それだけを呟くのが精一杯であった。 あの後、息絶え絶えで馬車を借りに行った才人は、馬車を借りる所でミス・ロングビルと出会って、何故か彼女と一緒に行く事で話が纏まってしまった。 類稀なる会話術と言うべきか、彼女の言葉に、ついころころと返事をしてしまったのだ。 おかげで、相乗りの事をご主人様に伝えて、もう一度切ない部分を蹴り上げられてしまったが。 「あれは……マジで勘弁して欲しいよなぁ……」 優しく踏まれるならまだしも、力の限り蹴り上げられるのはどう足掻いても、ドメスティク・バイオレンスだ。 正直、目から塩水がでちゃいますよ俺的な状態である。 「サイト~、着くまで暇だから歌でも歌いなさい~」 横暴だ。あんまりにも横暴だ。 後ろから響く、歌えコールにサイトは涙を堪えて、ドナドナの歌を歌い、そんな暗い歌を歌うな! と、後ろから、杖で思いっきり叩かれるのであった。 一方その頃、キュルケはタバサの部屋で紅茶を飲んでいた。 本当なら、ルイズの所で飲もうと思っていた代物だが、訊ねた時にはすでに部屋はもぬけの殻であった為に、もう一人の親友であるタバサの部屋へやってきたのだ。 無論、部屋の扉はアンロックで開けた訳だが。 「それにしても、ルイズは何処に行ったのかしらねぇ」 不思議そうに呟くキュルケの声に、タバサは反応しない。 ただ、目の前の、自分の顔より大きい本に読み耽っている。 別にその事にキュルケは腹を立てたりはしない。 何故ならこの娘は、本の虫であり、どんな時でも本を手放さない、本フェチだからだ。 そんな娘が、本を読んでいる時に返答をしてくれるなど、これっぽっちも考えていない。 「まぁ、街に秘薬でも探しに行ったか、何かなんでしょうね。 ルイズの怪我、まだ治っていないみたいだし」 加害者がその場に居ると言うのに話題にする内容では無いが、タバサは気にした様子は無い。 いや、少しだけ、本当に少しだけ目頭がピクリと動き、その事に関する事に何かしらの思いがある事を示していたが、残念ながら、それだけの変化で気付ける人間など、それこそ居ない。 実の所、タバサはルイズの事を警戒している。 あれだけの怪我を負わしたのだ。 自分の所に報復に来てもおかしく無い。 いや、彼女の性格から鑑みても、報復に来るはずなのだ。 今日、何処かへ出掛けたのも、恐らく怪我を完全に治す為の秘薬を手に入れる為だろう。 そして、怪我を完全に治癒した時、こちらに仕掛けてくる。 少なくとも、タバサはそう思っていたし、その為の準備もしている。 来るなら来れば良い。だけど、今度は仕留め損なわない。 そんなタバサの感情を表すように、手に握られている表紙が、少し歪んだ。 「ってな訳で、学院長ったら、わしはまだまだ現役だぞぃとか言って、私の事を口説いてくるのよ」 他愛無い話を耳から耳に流している中、キュルケが思い出したかのように 「あっ、そうそう、ギーシュの奴なんだけど、きちんと回復したわよ」 と、タバサにとって聞き捨てられない一言を漏らした。 「…………なんと言った?」 「えっ?」 「今、なんと言った?」 普段、読書中には返事をしないはずのタバサからの返事に、キュルケは一瞬たじろいだが、すぐに先ほどの言葉を繰り返す。 「えっ、あっ、いや、だから、ギーシュの奴なんだけど、きちんと回復したわよ」 ギーシュの症状を見たタバサは、その答えに思わず読んでいた本に栞を挟まずに閉じた。 そして、キュルケを真っ直ぐと見据えたタバサは、真剣な目つきでその先を促す。 「もっと……詳しく」 まるで砂漠の放浪者が、オアシスを発見したような必死さで聞くタバサに、キュルケはただならぬモノを感じて自分が知っている、ギーシュに関する事の顛末を聞かせるのだった。 「それでは、私はこちらに用事があるので、失礼します。 あぁ、それから、私の事は待たなくて結構ですよ。別の馬を借りて帰りますから」 ミス・ロングビルは街へと着くと、そう言って狭い路地の雑踏へと姿を消していった。 その後ろ姿が去っていくのを確認した後、ルイズは思いっきり不満げに、フンッ、と鼻を鳴らした。 「どうしたんだよ?」 「別に……ただ、ああいう手段が好きじゃないだけよ」 「?」 頭に疑問符を浮かべる才人を一瞥して、ルイズは街へと歩き出す。 (まったく……監視だなんて、やる事が陰湿なのよ) おまけに、ご丁寧にも一緒の馬車に乗って、監視している事をアピールしているあたり、これを仕掛けた人間は相当に性格が悪い。 (言われなくても、こっちだって、今は、騒動はごめんよ。 怪我だった治ってないしね) そう言って、学院の方を鷹のように鋭いを目で睨む。 「大方……学院長あたりでしょうね……」 ルイズの言動の意味が分からない才人は、先程から浮かべている疑問符の数を増やす事しか出来なかった。 「とりあえず、武器屋ね、その後は何処か人の集まる場所に行きましょう」 「武器なんて、誰が使うんだよ?」 大通りと比べると、どうにも不潔な感じがする路地裏を歩きながら、ルイズと才人は言葉を交わす。 「あんたに決まってるでしょ」 「あっ、やっぱり」 使用人として扱き使われた挙句に、武器を持って戦えなんて理不尽だなぁ、と才人は嘆いたが、口には出さなかった。 なんというか、そんな予感はしていたし、これから先も自分は決して平穏と言える生活なんて出来ないだろう。 そんな確信めいた予感に、才人は目頭が熱くなった。 「寂れた所ね」 開口一番にそう告げたルイズは、店主が唖然としているのにも関わらず、店の中の武器を観察し始めた。 横に居るホワイトスネイクと談議しながら買う物を真剣に選ぶ様子は、どう贔屓目に見ても少ないお小遣いで買う物を迷っている中学生だ。 「この槍はどうかしら?」 「槍ト言ウニハ持チ手ノ部分ガ脆スギル。コレデハ、相手ヲ突イタ瞬間ニ折レル可能性ガアル」 うん、ボクは何も聞いてないし、聞こえないよ。 あれは、楽しく物を選んでいる中学生。 断じて、相手が死ぬ様を想像しながら、武器を選んでいるメンヘラっ娘じゃあ無い!! 「脆い武器が多いわね。こんな強度じゃあ、首一つ落とせないんじゃないの?」 「ソウデモナイ。骨ト骨ノ間ヲ通スヨウニ斬レバ、肉ト脊髄ノ中身ヲ断ツダケダカラナ コンナ玩具ノヨウナ強度デモ可能ダ」 ――――――断じて無いよ。多分。 「貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさぁ。 ここにある武器達も、まっとうな所から流れてきた正規のもので、脆いだなんて、そんな事、決してありませんぜ」 ようやく、ルイズの容姿と発言のギャップから復活した店主が、店の品の擁護を始めるが、相手が悪い。 店主の脆くない発言を聞いたルイズは、長さが2メイルもありそうな大剣へ視線を向けると、瞬時にホワイトスネイクがその大剣に拳を打ち込み、ぶち壊した。 唖然とする店主と才人。 ルイズは、フンッ、と偉そうに鼻を鳴らし 「どう、これでもまだ脆くないなんて言い張るつもりなの?」 堂々と、脆さを認識させた。 「良い、私が欲しいのは、武器なの。 武器が素手に負けちゃあ、話にならないわよね」 まるでホワイトスネイクの喋り方が移ったかのような粘着質なルイズの声に、店の店主は、ひぃぃと喉から声を出して、店の奥へと消えていく。 恐らく、一番頑丈な武器を探しに行ったのだろう。 「すげぇな……ホワイトスネイクさん」 店主に続いて現実に帰還した才人は、感嘆の声をあげながら、砕けた剣の欠片を拾う。 「別にこれぐらいなら訳無いわよ。 と言うか……なんで、あんた、こいつに“さん”付けなのよ」 私の事は呼び捨ての癖してと、じと目で睨んでくるルイズに才人は、いや、なんかね、と口篭る。 才人は、チラリと名前の話題が挙がっているホワイトスネイクへと視線を送る。 172センチある才人を見下ろす2メートルの身長を持つホワイトスネイク。 さらに、その目の奥は、何か言い表せぬ恐怖を讃えるように瞳の形を取っていない。 そんな存在と、ルイズが気絶している間、才人はずっと同じ部屋で過ごしていたのだ。 ぶっちゃけて言おう。 才人は、ホワイトスネイクに、めっさビビッている。 “さん”付けもそこから来たものだ。 動物が腹を見せるように抵抗の意思はありませんと伝えるのと同じモノである。 「いや……まぁ、なんとなく」 一応、プライドがある才人は、それを悟られないように言葉を濁す。 ルイズは、目を細め暫く才人を見ていたが、はぁ、と溜め息を吐いて 「こいつの事は呼び捨てで良いわよ。 そんな呼び方されちゃあ、あんたも落ち着かないでしょ?」 同意を求めるようにホワイトスネイクに視線を向けると同時に、店の奥から店主が顔を覗かせる。 「あの~、こいつなんか如何でしょう?」 宝石が散りばめられ、豪華の限りを尽くされたその大剣は、先程の剣よりも一回り程小さい。 「これ、ほんとに丈夫なの?」 「えぇ! えぇ! かの高名なゲルマニアの錬金術師のツュペー卿が鍛えた剣ですぜ。 さっきの剣なんか比べちゃあなりませんさ!」 自信満々の店主の態度に、ルイズは、とんとんと刀身を叩きながら、じろじろと見る。 「私……ゲルマニアってあんまり好きじゃないのよ。 そんな国の高名な錬金術師さんが作った剣……悪いけど、信用ならないわ」 ホワイトスネイクがルイズの言葉に呼応するように右手を振り上げ、剣を壊そうとするのを察すると、 主人は大急ぎで剣を抱きかかえ、一本の錆びた剣と取り替えた。 「何コレ?」 「いやぁ、実はこっちの方が頑丈だったのを思い出しまして これなら、幾らでも叩いて確かめてくださって結構でさぁ」 店主がヘコヘコして差し出した剣は、そんな店主の態度に、驚いたような『声』を上げた。 「おい! おいおいおい!! てめぇ、せっかく人が黙って、おっかねぇのが居なくなるのを待っていたのに、わざわざ目の前に出すたぁ、どういうことだ!?」 「るっせい! お前みたいなボロ剣とこの剣とじゃ、価値が違うんだよ、価値が!?」 店主と言い争うボロ剣に、才人は、うわぁ、と驚きの声を上げ、ホワイトスネイクは振り上げた手を、ゆっくりと元の位置へ戻す。 「すっげぇ、この剣喋る!?」 「へぇ、インテリジェンスソードなんて……面白いものを置いているのね」 物珍しげに才人は、ジロジロと店主と叫びあっている剣を観察し、ルイズは、顎の下に手を当てながら、何かを考え込んでいる。 「お前見てぇな、ボロ剣はさっさと壊されちった方が世の為なんだよ、このスカタン!」 「んだと、ゴラァ!! やれるものならやってみろ! 言っとくが、てめぇ如きに壊される程、俺ぁ、柔じゃねぇぞ!!」 剣のやれるものならの発言を聞いた瞬間、ルイズの口元は面白いぐらいに吊り上がる。 「じゃあやってみましょう」 店主と言い合いをしていたはずの剣は、ひょいっとホワイトスネイクにその柄を掴まれ、ようやく自分の現状を思い出した。 「いやはは、その、今のは言葉の綾ってやつでな。 いや、マジで勘弁して欲しいかなぁ――――――」 なんとか延命を希望する剣に、ルイズは無言で首を横に振る。 才人は、不憫な奴だなぁ、と十字を切り、せめて安らかな眠りをと祈りを始める。 「おい、こら! そこの奴! 見てねぇで助けろ! いや、頼む、助けてください!」 そんなことを言われても困る。 才人としても、本日三回目となる切ない部分へのダメージは、遠慮したいのだ。 と言う訳で、素敵な笑顔を浮かべ、左手の親指を遥か天の上へと向け、歯を輝かせて 「うん、それ無理」 キッパリと切り捨てた。 「テメェェェェェェ!!」 剣の悲痛な叫び声と、ホワイトスネイクの拳が風を切る音は、ほぼ同時であった。 「……痛い」 ホワイトスネイクの拳打は、ルイズのそんな一言で終わった。 驚くべき事であるが、ホワイトスネイクの幾重の拳も、あの剣を砕く事は出来なかった。 逆に、打ち続けたホワイトスネイクの拳の方が砕けはしないが、幾らかのダメージを負っている。 「ハァー……ハァー……貴族の娘ッ子……おめぇ、随分と無茶してくれるじゃねぇか……」 泣きそうな声で、ボロ剣が呟く。 どうやら、マジで砕かれる可能性を考慮していたらしい。 そんな剣の様子に、ルイズは僅かに溜め息を吐いた後 「これ、お幾ら?」 店主にこの剣の値段を聞くのであった。 店主と値段交渉しているルイズを横に、才人は自分の相棒となる剣を握っていた。 案の定、剣を握った時、左手の奇妙な痣が淡い光を放ち、身体が軽くなったような不思議な感触に才人は襲われていた。 「おでれーた。おめぇ『使い手』か」 使い魔のルーンが発動中の才人に、剣はそう声を掛ける。 「『使い手』?」 台詞を鸚鵡返しした才人に、剣は、しばし、黙り、そして 「うっし、俺の名はデルフリンガーって言うのだが、これからもよろしく頼むぜ、相棒」 何故だか『使い手』については語らず、自己紹介をしたのであった。 その事に疑問を感じた才人であったが、まぁ、別に良いかと、自分もボロ剣改め、デルフに名前を教える。 そうこうしている内に、値段交渉を終えたらしく、ルイズはつかつかと出口へと向かって行く。 「ほら、行くわよ。次は人が集まる場所に行かなくちゃならないんだから」 ルイズの横柄な態度に、才人は、あいつはツンデレ、あいつはツンデレ、と辛い時に唱えると楽になる呪文を唱えつつ、その後を追うのであった。 次にルイズが訪れたかった場所は、人が多く集まる場所であった。 何故、そんな所が御所望かと問えば、情報が欲しいとの一言が返ってきた。 情報、情報ねぇ、と才人は首を捻り、RPGゲームで情報と言えば、酒場と言う事で、大通りの近くにあった、それっぽい店に入る事となった。 「「「いらっしゃいませ~!!」」」 店の中に入ると大勢の少女が、きわどい衣装に身を包み給仕をしていた。 いや、何ここ? ヘヴン? ボクは天国にでも迷い込んでしまったのかなぁ、と才人がぼーとしていると後ろから、本日三度目の切ない部分を直撃する蹴りが飛んできた。 「こんな所で情報なんて集められる訳無いじゃない! ほら、出るわよ!!」 自分のした事の重大さを理解していないルイズは、何度喰らおうと慣れない痛みに地面をのた打ち回っている才人に、さっさと店の外に行くと告げるが、動かない。 「おまっ……本当、本当……ここだけは勘弁してください……」 どうやらダメージが蓄積していたらしく、少々深刻な事態に陥っているようだ。 (しまった……やり過ぎたみたいね…… む~、こいつが回復するまでここに足止めか。それにしても良い匂い…… そういえば、お腹も空いてきたし、食事も取れるみたいだから、少しぐらい居ても良いかな) どのみち、才人が再起するまで動くに動けない。 とりあえず、近場のテーブルの椅子に才人を無理矢理座らせ(勿論、やったのはホワイトスネイク)自分も同じテーブルの椅子に座る。 「ご注文を伺います~」 胸を強調した服を着た黒髪の給仕が、注文を聞きにきたので、メニューから適当に品を選ぶ。 「そちらのお客様、ご注文はお決まりになりましたか?」 悶える才人に答えられる道理は無い。 「無理みたいだから良いなよ」 「わかりました、では、しばらくお待ちください」 「あぁ、ちょっと待って。 ここも、一応酒場でしょ? 噂話に詳しい奴って居ない?」 黒髪の給仕は、ルイズの問い掛けに目を輝かせ、 「それなら、あたしが一番詳しいですよ!」 と、豊満な胸を張って答えた。 ルイズが運ばれてきた食事を取りながら、黒髪の娘(ジェシカとか言うらしい)と会話している横で、才人は奇妙な容貌の者と対峙している。 「………………」 「………………」 その者の名は、ホワイトスネイク。 彼はルイズが話し込んでいる事もあり、暇を持て余しているのか、才人の事をじっと見据えていた。 「…………あの……」 「……………………」 無言で。 どうかと思う。 「あの、ホワイトスネイク……さん?」 “さん”は要らないとルイズに言われたばかりであるが、 どうにも無言で、しかも無表情と来ているホワイトスネイクに、どうしても、“さん”を付けてしまう才人であったのだが 「ルイズガ、言ッテイタロウ……“サン”ハ、必要ナイ」 「あっ、はい、すんません」 唐突に返された言葉に思わず頷いてしまった。 そこで、才人は気が付く。 今のが、ホワイトスネイクとまともに成立した初めて会話であった。 会話を交わした。その事実に気が付いた才人は、どうせルイズの話も長引きそうだし、粘って、もう少し会話をしてみようと決心する。 「なぁ、あんたってさ、パッと見て人間みたいだけど、種族って何なの?」 「種族、ト言ウモノガ、ソノ存在ノ分類ヲ示スノデアレバ『スタンド』ト言ウ呼ビ名ガ、私ノ種族ダロウナ」 「『スタンド』ねぇ……聞いた事無いや」 「ソレハソウダロウナ。コノ呼ビ名ヲ付ケタノハ、DIOト言ウ名ノ男ダ。 私モ、便宜上、ソレヲ使ッテイルダケニ過ギナイ」 「はぁ~、あだ名みたいなものなんだ?」 「ソウダナ……個々ガ好キ名デ呼ブ場合モアルカラナ。 『守護霊』『悪霊』皆、好キ勝手ニ呼ンデイル」 「『守護霊』に『悪霊』って……あんた、幽霊だったの!?」 驚くような声を上げた才人は、ホワイトスネイクを確りと見る。 がっしりとした肉体に、へんてこな頭部。体に刻まれた変なマークに……足はキチンとある。 「いやいやいや、足だって、あるし、何より、触れるじゃん」 そう言って手を伸ばし、ホワイトスネイクの手に触れた才人であったが、ホワイトスネイクは、首を横に振った。 「触レラレルカ触レラレナイカハ、些細ナ問題ダ。 我々ハ、本来、スタンド使イ……要スルニ、我々ヲ扱ウ者ニシカ見ル事ハ出来ナイ精神体ダ」 「えっ? でも、見えてるじゃんか?」 そう言う才人は、テーブルに置いてある水の数を数える。 ひぃ、ふぅ、みぃ。 きちんと三人分。 つまり、ホワイトスネイクの分もあり、これは少なくとも給仕の娘には、ホワイトスネイクが見えてる事に他ならない。 「ソウダナ……私モ、ソレガ疑問ダッタガ、マァ、ドウデモ良イ。些細ナ事ダ」 そう言い切るホワイトスネイクに、才人は、こいつ……理知的な喋り方してるけど、実は大雑把な奴なんだなぁと、妙に親近感が湧いてきた。 出会ってから感じていた、苦手意識も自然と消えていく……ように感じる。 「なんだ、あんたって、案外大雑把なんだな。 俺、てっきり気難しい細々とした奴かと思ってたんだけど」 よく物事を考えずに言葉を口にしてしまうのは、才人の悪い癖であるが、ホワイトスネイクは、別に気にしていなかった。 と言うか、才人はおろか、他の人間の言う事もホワイトスネイクにとっては瑣末事だ。 彼にとって、自分が自発的に動くべきは本体の為だけであり、それ以外は全て面倒な出来事である。 今、こうやって才人と会話しているのも、彼にとってこの数日間で目覚めた、暇に対する拒否反応だ。 暇を潰す事だけが目的であり、それ以上でも、それ以下でも無い。 「ってな感じなんだけど……参考になった?」 「えぇ、助かったわ。ありがとう」 才人とホワイトスネイクが、適当な会話に花を咲かせているうちに、ルイズと黒髪の娘の話も終わり、食事に集中しようとしたルイズが、ふと顔を上げる。 「あんた、全然食べてないじゃないの? 何、お腹空いてないの?」 才人の手前に置かれた食事の類は、痛みに耐えていた才人が注文出来なかった代わりに、ルイズが頼んでおいた代物だ。 焼き立てのパンと、具材たっぷりのスープに、ドレッシングの掛かった何か良く分からない野菜のサラダ。 見るからに美味そうなラインナップであるが、ホワイトスネイクとの会話に集中していた才人は、まったくそれらを食べてない。 「食べないなら食べないでも良いんだけど、 私が食べ終わったら、店から出るから、食べるなら早くしなさいよ」 そう言って、残り僅かな鶏肉の照り焼きを、パクパクと食べるルイズに、才人は早食いで答えるのであった。 その頃、才人とルイズが居ない学院では、キュルケとタバサが、ギーシュの部屋の扉を開け、モンモラシーがギーシュに対して、あ~んをしている現場を押さえていた。 ギーシュとモンモラシーは勿論だが、そういうウブな行為をあまりしたことが無いキュルケですら顔を赤らめ、黙ってしまった中で、タバサだけが、つかつかと靴音を荒く立てながらギーシュへと近づく。 「質問がある」 「なっ、なんだい?」 いつもの無感情で起伏の無い声ではなく、何か言い知れぬ凄みを含む声に話しかけられたギーシュは、どもりながらも返事をする。 「貴方の今の状態とそうなった理由を詳しく教えて」 「状態と……理由?」 何を聞いているんだと首を傾げるギーシュだが、タバサの目があんまりにも鋭いので、仕方なく、つらつらと言葉を述べていく。 「状態と言われても……気分が凄く良いぐらいだね。 魔法も、また使えるようになったし……後、そうなった理由って言うのは、僕が正気に戻った理由かい? 正直に言うと、ルイズと決闘した後から今日までの記憶が、すっぽりと抜け落ちていてね。 モンモラシーに、今までの事を聞かなかったら、自分が壊れていたなんて、さっぱり分からなかったよ。 でも、聞いた話では、ルイズが僕の事を元に戻してくれたんだろう?」 ギーシュの問い掛けに、モンモラシーとキュルケは、同時に首を縦に振る。 それを見て、タバサは何かを考えこむように、僅かに目を瞑った。 ギーシュの症状は誰が見ても、もう、治せない状態であった。 ある理由から、色々と精神の病気について調べているタバサですら、ギーシュは一生あのままだと思っていた。 しかし、彼は目覚めた。 記憶の欠落はあるが、それ以外は、元のギーシュそのままだ。 つまり、完治している。あそこまで精神的に壊れていたと言うのに。 「………………」 無言で閉じていた目を開き、タバサは自室へと戻っていく。 試す価値はある。 否、これだけの成果を出しているのだ。 望みは十分にある。 問題は――――――どうやって頼むかだ。 一人、足早に歩くタバサは、その事を只管に考えていた。 「あんた、よく、そんなの買うお金があったわねぇ」 「一週間だけ厨房で働いてたから、その駄賃を貰ってたんだよ」 帰りの馬車の上で、才人は手綱を上手く操りながら、ルイズの言葉を律儀に返していた。 行きで苦労した甲斐があったのか、今の才人の手綱捌きは、そこそこ上達しているように見て取れる。 「ふ~ん、で、それ誰に上げるのよ」 ルイズが興味津々で訊ねるのは、才人が買った一つの腕輪だ。 ヒスイ細工の綺麗な腕輪は、少々値は張ったがそれだけの価値に見合う輝きと美しさを持っているが、才人が自分で嵌めるにはサイズが小さく、明らかに誰かのプレゼント用の品物だった。 「いや、世話になっている同室の娘にな」 思えば、シエスタには随分世話になっている。 ルイズ付きの使用人になってからも、シエスタの部屋から通っている才人は、毎夜、シエスタと顔を合わせる事で、一日の疲れを癒しているのだ。 それに、この二、三日はマッサージまでしてくれている。 感謝するなと言うのが無理な話であった。 「ふ~ん……」 なにやら詰まらなそうに相槌を打つルイズに、はて、自分は何か気に障る事でも言ったかと恐慌する。 「……いや、別にあんたが誰と付き合おうが、私には関係無いんだけど 使用人としての本分を忘れてまで、付き合うの駄目だからね」 ふんっ! 鼻を鳴らして使用人として自覚を持てと言うルイズに、薄ら寒いものを感じた才人は、そういえば! と大きな声を上げて、話題を逸らす。 「給仕の娘と随分長話していたみたいだけど、一体、何を聞いてたんだ?」 「そうね……まぁ、世の中にどんな人間が居るかって言う世間話よ」 何が楽しいのか、ルイズの声は先程と打って変わって、幾分、楽しそうな韻を含んでいる。 「中でも、モット伯とか言うのが、一番興味を引いたわね。明日辺り、会いに行くのも悪くないわ」 「明日は馬が借りられないだろ?」 「学院から近いから、徒歩でも大丈夫よ」 明日が楽しみね、と笑うルイズに、明日は、足がパンパンになるまで歩かされるであろう予想が、頭に浮かぶ才人であった。 だが、その予想は少しばかり早く実現することとなる。 その夜、部屋からシエスタの荷物が無くなっている事に愕然とする才人に、料理長のマルトーが放った言葉によって 第六話 戻る 第八話
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